52.俺は君を愛したい
ユリアと婚約して半年が経ったその日――
俺とユリアの結婚式が行われた。
ヴァイゲル邸の大広間にて、親族や関係貴族、騎士や魔導師たちに国王までも参列し、俺たちを祝ってくれた。
ユリアはこれまでで一番美しく着飾り、洗練された姿で俺の隣にいた。
初めて会った頃は髪も爪も肌も荒れていたというのに、今はまったくその面影がない。
すべてが艶やかで美しい。
あの頃はまさかユリアとこうしている未来が現実に訪れるなど、思ってもいなかった。
俺は幸せだ。
あの頃の自分にこのことを伝えたら、なんと言うだろうか。
……いや、やはり内緒にしておいたほうがいいな。
気を抜くと緩んでしまいそうになる口元を引き締め、ユリアの夫として相応しく在るべく、堂々と彼女に向き合った。
「ユリアーネ……一生あなたを愛し、命をかけて守り抜くことをこの剣に誓う。どうか俺と生涯をともにしてほしい」
愛を乞う騎士の誓いの言葉を述べ、愛剣を掲げれば、ユリアもにこりと笑みを浮かべて応えてくれる。
「はい……ルディアルト様。私も、生涯をかけてあなたをお支えし、愛することを誓います」
国王陛下の前で誓いを交わし、互いの魔力を織り交ぜた指輪を交換する。
大勢の人前に出ることは俺もユリアも苦手だが、こうしてたくさんの祝福の拍手を浴びるのは悪くない。
陛下が俺たちを夫婦として認め、ここにいる大勢がそれを見届けてくれた。
これでユリアは本当に俺の妻になった。
この日の誓いを、俺は一生忘れない。
*
「今日は疲れただろう?」
そしてその日の夜――。
ヴァイゲル邸に新しく用意された二人の寝室にて、俺は天蓋付きの大きなベッドの上に大人しく座って待っていたユリアのもとに歩み寄り、努めて優しく声をかけた。
「ルディさんも……お疲れ様でした」
今夜は俺たちの初夜だ。
俺がこの日をどれだけ待ちわびてきたか……。
だが、焦りがっついてはいけない。
ユリアはそれ用に用意された寝衣に身を包み、小さくなって俯いていた。
緊張しているのがこちらまで伝わってきて、とても可愛い。
本当は今すぐにでも押し倒してしまいたいが……そんなみっともないことはできない。
大丈夫、俺はまだ理性を保てている。
「ユリア、こっちを向いて?」
ベッドに腰を下ろせば俺の体重に合わせてぎしりと沈み、ユリアはビクッと肩を震わせてそっと俺に視線を向けた。
「……大丈夫?」
「……はい、覚悟はできています!」
〝覚悟はできています〟って、可愛すぎるよ。
そう思いながら手を伸ばしてユリアの顔にかかった髪をよけ、朱に染まる頬に触れる。
「それは頼もしいね」
言葉とは裏腹にとても緊張している様子の彼女に胸の奥がきゅっと疼き、可愛いのと可笑しいのとで、思わず笑みがこぼれてしまう。
「ユリア、大丈夫だよ。俺は俺だから」
「……はい」
明らかにカチカチのユリアの身体をそっと抱き締め、胸の中に納める。
情けないが、俺だって緊張している。
それが伝わるように静かに優しく、背中を撫でてやった。
「……ルディさん」
そうすればユリアも少し安心したように俺の背中に腕を回してくれたから、しばらくそのまま互いの鼓動の音を交わし合った。
かつて戦いにおいてもこれほど気持ちが高ぶったことはないのに、ユリアの温もりは同時にどこか落ち着くものがある。
ユリアが嫌なら、今夜は何もしなくたって構わない。
無理をさせるつもりはない。
ユリアが安心してくれるまで、俺はいつまでもこうしていられる。
だがしばらくそうしていると、やがてユリアの身体から力が抜けていくのがわかった。そっと彼女の顔を見つめ、確認するように微笑むと、彼女も小さく笑い返してくれた。
愛らしい瞳と視線が絡み合うと、それだけで身体の奥底からじわじわと何かが昇ってくる。
「…………」
そんな彼女に、そっと口づけた。
もう何度も交わしたそれはユリアもちゃんと受け入れてくれて、俺はいつもよりも深く、長くそれを続けた。
「ルディさん……っ」
「……ルディと呼んで?」
「…………ルディ」
「ああ、ユリア……愛してる。心から」
俺の愛に応えて身を揺らすユリアに、耐えきれなくなってしまいそうになるものをなんとか堪え、何度も何度も彼女の名を囁いた。
彼女からも「ルディ」と苦しげに愛しい声で名を囁かれ、頭がクラクラしてしまう。
……すまない。やはり今日は少し、無理をさせてしまうかもしれない。
まだ夜は長い。今夜はたっぷり君を味わわせてもらうことにするから、覚悟して?
そう思った言葉は口にできたか定かではないが、俺はユリアのすべてを味わうように身体中に口づけを送り、互いの熱を溶け合わせていった。
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