05.久しぶりの手紙
「ちょっと、ユリアーネ! この服直しておけって言ったでしょう!? 明日着ていこうと思っていたのに、まだ直ってないじゃない!」
「ごめんなさい、お義姉様。けれど私には他の仕事があって、そんな時間は……」
「はぁ? じゃああんた、夜は何をしてるのよ。寝てるんじゃないの!? 寝る時間があるんなら、私の服を直しなさいよ!!」
「……そんな」
お気に入りの服が破れたから直しておけと、義姉に言いつけられたのは昨日のこと。
そんなにすぐ取りかかる時間が私にはないのに、義姉はそう怒鳴りつけてきた。
明日着ていくつもりだということは聞いていない。
「ふん、本当に役立たずな娘だ」
「そうよ、裁縫もできないんなら、せめて早く嫁いでお金を仕送りなさいよ!」
「まぁ、それもあと半年だな」
「ねぇお父様、それより私の婚約者はまだ見つからないの?」
「ああ、もう少し待っておくれ。お前には特別にいい男を探してきてやるからな。こいつのような下っ端騎士とは比べものにならない男をな」
「やったぁ! 楽しみだわ!」
「……」
破れた服を私に投げつけて、二人は高らかに笑った。
悔しくて、涙がこぼれ落ちそうになる。
けれど義父の言う通り、あと半年。あと半年我慢すればいい。
大丈夫、きっとカール様は立派な騎士様になるわ。
涙をぐっと堪えて夕食の片付けとお風呂掃除を終えると、義姉の服を掴んで部屋に籠もり、寝ずに針を動かした。
あの二人が文句の一つも言えないくらい、完璧に仕事をこなしてやる!
そして私がいなくなった後、私という存在の大きさに気づいて、感謝すればいいんだわ!
そうして夜が明ける頃、義姉の洋服の仕立ては終わった。
一睡もできぬまま、すぐに朝食の支度に取りかかる。
それから仕事に向かう義父を見送り、遊びに出かける義姉の髪をセットして、着付けを手伝わされる。
昨日私が直した服を当たり前のように着ているけれど、もちろん「ありがとう」の一言もない。
こんな嫁もらいたがる男性なんているのかしら。
いくら伯爵家とはいえ、フレンケル家は最近事業がうまくいっていないことくらい、私にでもわかる。
何せメイドを雇うことすらもケチっているのだから。
――あの日から三日ほど、ルディさんはやってこなかった。
カール様はお疲れだということだから、しばらくは来ないのだろう。
教えていただけただけでもありがたいことだわ。ルディさんには本当に感謝しなくては。
それでもいつ手紙が届けられてもいいように、私は決まった時間に庭掃除をした。
そしてその日、ルディさんはやってきた。
「ユリアーネ」
「ルディさん!」
思いがけない来訪に、胸が熱くなるのを感じる。
いつもと同じ、爽やかな笑顔で馬を下りて私の前に立つと、胸の内ポケットから手紙を取り出して私に渡してくれた。
「これは……?」
「うん、君の手紙に胸が打たれたようだ」
「では、カール様から……!」
久しぶりの手紙に、ルディさんの前だというのに思わずその場で封を切り、読んでみた。
〝親愛なるユリアーネ
しばらく手紙が書けなくて申し訳なかった。
とても寂しい思いをさせてしまったね。
本当にごめんね。
だが君にはいつも笑っていてほしい。
君の笑顔を思うと、私はとても頑張れるのだから。
カール・グレルマン〟
「……ああ、カール様」
久しぶりに届いたその手紙の文面は、とても繊細で美しいものだった。
久しぶりだからかしら?
どうしてか、その文面にとても胸が打たれて、あまりの嬉しさに手紙をぎゅっと抱きしめてしまった。
「ルディさん、本当にありがとうございます。私、この一枚の手紙があれば頑張れそうです」
「……そうか、それはよかった」
思わず熱くなる目頭にまぶたを伏せ、この喜びを噛みしめる。
「元気になってくれたようで、よかった」
「え……?」
「なんだかとても元気がないようだったから」
「……」
ルディさんの青銀色の瞳が、小さく揺れて私を捉えた。
彼は、とても美しく澄んだ瞳をしている。
この屋敷の人たちとは全然違う、その心を映したような綺麗な瞳。
「何か無理をしているんじゃないか?」
「いいえ……そんな。お気遣いありがとうございます」
「困ったことがあったら、俺でよければ何でも言って。この国の民を守るのが、俺の仕事だから」
「……ルディさんは、本当に素敵な騎士様ですね」
王宮騎士であるルディさんが、こんな娘一人をこうも気にかけてくださるなんて。
「お気遣い感謝します。ルディさんも、ご自愛くださいね」
「はは、俺は大丈夫だ。これでも鍛えているんだぞ?」
「ふふ、わかりますよ」
服を着ていてもわかる。筋骨隆々というほどではないけれど、しっかりと鍛えられているだろうその肉体は、私のものとも、義父のものとも全然違う。
「……それでは、また明日来るよ」
「はい、お気をつけて」
ルディさんも私と同じようににこりと微笑むと、馬に跨がり去っていく。
……でも、また明日と言っていたけれど、手紙がなくても顔を出してくれるつもりなのかしら?
その言葉に少しだけ胸が高鳴って、私は緩んでしまう口元をきゅっと結んで箒を手に取った。