表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/53

05.久しぶりの手紙

「ちょっと、ユリアーネ! この服直しておけって言ったでしょう!? 明日着ていこうと思っていたのに、まだ直ってないじゃない!」

「ごめんなさい、お義姉様。けれど私には他の仕事があって、そんな時間は……」

「はぁ? じゃああんた、夜は何をしてるのよ。寝てるんじゃないの!? 寝る時間があるんなら、私の服を直しなさいよ!!」

「……そんな」


 お気に入りの服が破れたから直しておけと、義姉に言いつけられたのは昨日のこと。

 そんなにすぐ取りかかる時間が私にはないのに、義姉はそう怒鳴りつけてきた。

 明日着ていくつもりだということは聞いていない。


「ふん、本当に役立たずな娘だ」

「そうよ、裁縫もできないんなら、せめて早く嫁いでお金を仕送りなさいよ!」

「まぁ、それもあと半年だな」

「ねぇお父様、それより私の婚約者はまだ見つからないの?」

「ああ、もう少し待っておくれ。お前には特別にいい男を探してきてやるからな。こいつのような下っ端騎士とは比べものにならない男をな」

「やったぁ! 楽しみだわ!」

「……」


 破れた服を私に投げつけて、二人は高らかに笑った。


 悔しくて、涙がこぼれ落ちそうになる。

 けれど義父の言う通り、あと半年。あと半年我慢すればいい。


 大丈夫、きっとカール様は立派な騎士様になるわ。


 涙をぐっと堪えて夕食の片付けとお風呂掃除を終えると、義姉の服を掴んで部屋に籠もり、寝ずに針を動かした。


 あの二人が文句の一つも言えないくらい、完璧に仕事をこなしてやる!

 そして私がいなくなった後、私という存在の大きさに気づいて、感謝すればいいんだわ!



 そうして夜が明ける頃、義姉の洋服の仕立ては終わった。


 一睡もできぬまま、すぐに朝食の支度に取りかかる。



 それから仕事に向かう義父を見送り、遊びに出かける義姉の髪をセットして、着付けを手伝わされる。

 昨日私が直した服を当たり前のように着ているけれど、もちろん「ありがとう」の一言もない。


 こんな嫁もらいたがる男性(ひと)なんているのかしら。

 いくら伯爵家とはいえ、フレンケル家は最近事業がうまくいっていないことくらい、私にでもわかる。

 何せメイドを雇うことすらもケチっているのだから。



 ――あの日から三日ほど、ルディさんはやってこなかった。

 カール様はお疲れだということだから、しばらくは来ないのだろう。


 教えていただけただけでもありがたいことだわ。ルディさんには本当に感謝しなくては。


 それでもいつ手紙が届けられてもいいように、私は決まった時間に庭掃除をした。


 そしてその日、ルディさんはやってきた。


「ユリアーネ」

「ルディさん!」


 思いがけない来訪に、胸が熱くなるのを感じる。


 いつもと同じ、爽やかな笑顔で馬を下りて私の前に立つと、胸の内ポケットから手紙を取り出して私に渡してくれた。


「これは……?」

「うん、君の手紙に胸が打たれたようだ」

「では、カール様から……!」


 久しぶりの手紙に、ルディさんの前だというのに思わずその場で封を切り、読んでみた。



〝親愛なるユリアーネ


 しばらく手紙が書けなくて申し訳なかった。


 とても寂しい思いをさせてしまったね。


 本当にごめんね。


 だが君にはいつも笑っていてほしい。


 君の笑顔を思うと、私はとても頑張れるのだから。


 カール・グレルマン〟



「……ああ、カール様」


 久しぶりに届いたその手紙の文面は、とても繊細で美しいものだった。


 久しぶりだからかしら?


 どうしてか、その文面にとても胸が打たれて、あまりの嬉しさに手紙をぎゅっと抱きしめてしまった。


「ルディさん、本当にありがとうございます。私、この一枚の手紙があれば頑張れそうです」

「……そうか、それはよかった」


 思わず熱くなる目頭にまぶたを伏せ、この喜びを噛みしめる。


「元気になってくれたようで、よかった」

「え……?」

「なんだかとても元気がないようだったから」

「……」


 ルディさんの青銀色の瞳が、小さく揺れて私を捉えた。

 彼は、とても美しく澄んだ瞳をしている。


 この屋敷の人たちとは全然違う、その心を映したような綺麗な瞳。


「何か無理をしているんじゃないか?」

「いいえ……そんな。お気遣いありがとうございます」

「困ったことがあったら、俺でよければ何でも言って。この国の民を守るのが、俺の仕事だから」

「……ルディさんは、本当に素敵な騎士様ですね」


 王宮騎士であるルディさんが、こんな娘一人をこうも気にかけてくださるなんて。


「お気遣い感謝します。ルディさんも、ご自愛くださいね」

「はは、俺は大丈夫だ。これでも鍛えているんだぞ?」

「ふふ、わかりますよ」


 服を着ていてもわかる。筋骨隆々というほどではないけれど、しっかりと鍛えられているだろうその肉体は、私のものとも、義父のものとも全然違う。

 

「……それでは、また明日来るよ」

「はい、お気をつけて」


 ルディさんも私と同じようににこりと微笑むと、馬に跨がり去っていく。



 ……でも、また明日と言っていたけれど、手紙がなくても顔を出してくれるつもりなのかしら?


 その言葉に少しだけ胸が高鳴って、私は緩んでしまう口元をきゅっと結んで箒を手に取った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ