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44.面倒な女たち

 ユリアーネがヴァイゲル邸に来て魔導師団に身を置くようになり、もうすぐふた月になろうとしていた頃だった。


 最近はよく一緒に昼食をとるようになったのだが、ある日彼女のローブが不自然に縫い合わされていることに気がついた。


 どうしたのか彼女に聞いても、誤魔化されてしまった。


 ……まさか、俺に気がある貴族令嬢が?


 散々結婚しないと言いふらしてきた俺が、一人の女性に求婚して家に住まわせているという噂は、あっという間に広まったらしい。


 俺は構わないのだが、意地の悪い貴族令嬢が世の中には存在しているということを忘れてはならない。


 そうなれば被害に遭うのは、ユリアーネだ。

 本当に、どうしてこう、醜く愚かなことができるのだろう。


 ユリアーネに嫌がらせをすれば俺が自分を好きになるとでも思っているのか。そんなことは少し考えれば、あり得ないとわかるはずだ。


 であれば、その座を射止めた彼女を少しでも不幸にしてやりたいのだろうか。

 それで気が晴れるのならば、実に愚かで哀れだ。


 そんなことでは、やはりまともな男に惚れてもらうことは叶わず、一生幸せなど訪れないだろうな。


 などと他人事のように思ってもいられない。

 ユリアーネに危害が及んでいるのなら、俺も黙っているつもりはない。



 俺は社交界へはしばらく顔を出していなかったが、妹の相手選びで最近よく夜会に参加している、第二騎士団団長のハンスの協力も得て、特に彼女を憎んでいる三人の女性に目星を付けた。


 更に、ハンスが仕入れたいわれもない噂に頭を抱え、例の女三人がよく集まって茶会を開いているという庭園へ足を運んだ。


 どう言って分からせてやろうかと思案しながら向かっていれば、やはり今日も集まっていた彼女たちのところには、既に先客がいた。


 あの後ろ姿はユリアーネだ。


 何か騒いでいる女性たちに、ユリアーネは静かに言葉を返しているようだった。


「……調子に乗るんじゃないわよ!! あんたは十分迷惑なのよ!! わかっているのなら今すぐ消えてちょうだい!!」


 距離を詰めれば聞こえてきた会話に、俺の足にも力が入る。


 やはり彼女たちで間違いないようだな。


 ユリアーネは置かれていた環境のせいで、思っていることを我慢してしまうところがある。

 最後に義父の罪を告発できたように、言いたいことは言っていいのだと伝えてやらねばと、すぐにあの女性たちを黙らせてやろうと思ったが、ユリアーネは堂々と胸を張り、澄んだ声で言った。


「――私がルディアルト様に相応しくないのは重々承知しております。ですが、あなたたちに勝手な作り話を広げられる筋合いはございません。今はまだあの方に見合う女性ではないけれど、もしもいつかそうなれたのなら、私は堂々とあの方に連れ添います。そうなれるよう、努力いたします。あの方が私を見てくれているかぎりは」


「…………」


 その言葉に、俺の胸は思わず高鳴った。


 ユリアはきちんと俺のことを考えてくれている。

 そのときが来れば、俺の気持ちに応える気があるのだ――。


「な……、何を言っているのよ、ルディアルト様がいつまでもあなたなんかの相手をするはずがないでしょう――!?」


 しかし、彼女たちは数で勝っている。群れた女性はどこまでも気が強いらしい。

 その負けん気の強さは、別のところで発揮できればよかったんだがな。


「俺はいつまでだって待つつもりなんだが――どうしてあなたにそんなことを言われなければならないんだ?」


 ひとつ溜め息を吐き、そこでようやく俺は声を上げた。


「ルディアルト様……っ!?」


 俺の存在に気がついた女性たちの顔から一気に血の気が引いていく。


「おまえたちか。彼女のいわれもない酷い噂を流したのは」

「そ、それは……っ、ルディアルト様はこの方に騙されているのですわ、しっかりしてくださいませ!」


 険しい表情(かお)で近づいて問えば、返ってきたのはそんな言葉。


「……俺がしっかりしていない? 王宮騎士を舐めるなよ。しっかりした頭がなければこの国も民も守ってはいけない」


 この女たちは何様のつもりだ? 王宮にいるからと、自分が王女にでもなったつもりでいるのだろうか。


「まぁ、俺が守るのはその価値のある者だけだが」

「……っ」


 ユリアーネの隣で歩みを止めても未だ座ったままでいる彼女たちを見下ろす。


「これ以上彼女に何か害をもたらすつもりなら、俺も黙ってはいないぞ」

「……申し訳、ございません……」

「それは誰に謝っているんだ?」


 少しきつく言えば、ようやく自分と俺の立場を思い出したのか、おぼつかない足取りで立ち上がると、ユリアに身体を向けて「ごめんなさい」と呟いた。


 ただし、本当に悪いとは思っているのか怪しい口調だった。


「ユリアーネに何かするということは、俺にするのと同じだと思え。その覚悟がないのなら、二度と関わるな」

「……はい」


 最後に俺に向けて頭を下げた彼女たちを一瞥し、俺はユリアーネに笑顔を浮かべた。


「では行こうか、ユリアーネ」

「はい……」


 見せつけるように彼女の手を握って歩み出すと、背中からは刺さるような視線が注がれた。


 懲りない女だとは思うが、もしまた何かしてくるようなら二度とユリアーネの前に立てないようにしてやるまでだ。


彼女たちの頭が、そこまで弱くないことを祈る。


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