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04.訪れた騎士様

 カール様からの手紙が途絶えて、ひと月近くが経った。


 季節はすっかり秋を迎えている。


 ……きっと、今日も来ないんだろうな。


 半ば諦めつつも、いつも通り庭の掃除をしていたら、久しぶりに聞く優しい声が私の名前を呼んだ。


「ユリアーネ」

「ルディさん!」


 前と変わらない姿で馬に跨がり、ルディさんがやってきた。


「久しぶりだね。元気だった?」

「お久しぶりです! 私は相変わらずですよ。ルディさんこそ、お元気でしたか?」


 馬から下りて私に笑顔を見せてくれるルディさんの姿に、私は心の底から安堵した。


 ……よかった。無事だったのね。


「ああ、俺は何も変わらないよ」

「そうなのですね。本当によかったです。何かあったのかもしれないと、心配していました」


 素直にその気持ちを告げると、ルディさんは少しだけ困ったように眉をひそめて笑顔を浮かべた。


「心配させてしまっていたか、すまない。やはりもう少し早く顔を出せばよかった」

「いいえ。お忙しいでしょうから、お気になさらないでください」


 こうしてまた来てくれただけでも、私は嬉しい。

 いつの間にか、ルディさんと交わすこの少しのやり取りを、私は楽しみにしていたのだと気づかされる。


 家ではあの義父と義姉に嫌なことを言われてばかりだから、こんなふうに普通に会話ができるだけでも楽しく感じてしまうのは、当然でもあると思うけど。


 でも何事もなくて、本当によかった。


「……それで、手紙なんだが」

「はい、カール様も元気にしていらっしゃいますか?」

「ああ、彼も元気だよ。ただ……」

「……?」


 今日は久しぶりに手紙を届けに来てくれたのだと思う。

 カール様の事情で今まで書けなかったのか、ルディさんの事情で届けられなかったのか。どちらかはわからないけれど、ルディさんが来てくださったということは、きっとカール様からの手紙もあるのだろうと、そう想像した。


 けれど――


「彼は今、とても忙しくてね。残り半年、訓練はとても厳しいものになっている」

「……そうなのですね」


 つまり、カール様からの手紙はないということのようだ。


「……すまない、手紙がないのに来るのは迷ったんだ。しかし君も心配しているかもしれないと思って」

「いいえ、そういうことだったのですね。事情がわかり、とても安心しました。カール様のことは心配ですが、きっと乗り越えてルディさんのような立派な騎士様になり、私を迎えに来てくださると信じています」

「……ユリアーネ」

「わざわざ伝えに来てくださり、ありがとうございます」


 確かに手紙がないのは少し残念だけれど、それよりもルディさんの元気なお姿を見られただけでも安心した。

 それに、わざわざ手紙がない理由を教えに来てくれるなんて。

 きっとルディさんもこのひと月、どう対応すべきか悩まれていたんだわ。

 本当に部下と民思いの、素敵な方ね。


 そう思い、心から感謝の意を表して深々とお辞儀する。


「あの……図々しいお願いなのですが、もしよろしければこちらだけでもカール様にお渡しいただけますか? 返事は落ち着いてからで構わないとお伝え願いたく」


 厚かましいと思われるかもしれない。けれど、私が頼れるのはルディさんだけ。だから思い切ってそう言って、毎日ポケットに忍ばせていた手紙を差し出した。


「……わかった。これは受け取っておく」

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」


 ルディさんは手紙を受け取ると、再び馬に跨がり帰っていった。


 ……大丈夫。きっとカール様は乗り越えてくださるわ。


 ルディさんを見送りながら、私は自然とその後ろ姿を目に焼き付けた。



 手紙がないと、きっとルディさんもここへはしばらく来ないだろう。


 それを思うと少し寂しいけれど、カール様も頑張っているのだから、私も頑張らないと!


 それに、長くてもあと半年なのだから。

 今までの手紙を読み返すだけでも十分、頑張っていけるわ。


 そう言い聞かせて、今日も自分の仕事に励んだ。


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