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39.二人が得たもの

「ユリア」


ルディさんに名前を呼ばれ、私は溢れそうになっていた涙をぐっと堪えて姿勢を正し、胸を張り、顎を引いて答えた。


「君はいつも健気でまっすぐだったね。どんな環境下であろうと、ひたむきに気高く生きている君の姿に俺は惹かれていった。少し危なっかしいところもあるが、そんな君を守る役目を俺にいただけるのなら、これほど幸せなことはない。この気持ちはあの頃――手紙に想いをしたためていた頃から何も変わっていない。君を心から愛している。将来的に、フィーメル領を一緒に守っていきたい」


 そう言って、ルディさんは私の前に跪き、そっと手を取って私を見つめた。


 ルディさんはいつもこうして私だけを見てくれていた。

 初めて出会った一年半前のあの頃からとても優しくて、彼は私の憧れの人だった。


 ついにすべてを諦めてしまいそうだったときに、救ってくれたのも彼だった。

 本当に、私にはもったいないくらいに素敵な男性(ひと)


 これで私は、ようやく彼と並んでも恥ずかしくないものを手に入れられた気がする。

変わらず私を想ってくれているルディさんには、これからも精一杯の気持ちで応えていこうと思う。


 どんなに世界が広がっても、誰に必要とされても、私の気持ちはずっと変わらない。

 ルディさんの瞳は私にそう思わせてくれる力がある。


「……ありがとうございます、ずっと一緒に、フィーメルの地と民を守っていきたいです」


 握られた手に私も力を込めて、はっきりとお伝えする。


「私も愛しています、ルディさん」


 立ち上がり、両手で私の手を握るルディさんに、にこりと笑ってお応えする。

けれど、じんわりと目尻に熱を感じて視界が歪みそうになった。


「ユリア……」


 感極まったような表情で熱い視線を送り、一歩私に近づくルディさん。

 私の手を包み込んでいる彼の手にもぎゅっと力が込められて、そのまま引き寄せられるかと思ったとき、


 ヴァイゲル公爵が「おほん」と大きく咳払いをした。


「ルディ。嬉しいのはわかったが、今は陛下の御前だぞ」

「……は、失礼いたしました」


 はっとしたように我に返り、国王に頭を下げるルディさん。


「よいよい、めでたいことだ。ユリアーネのためにも、これからもますます励めよ、ルディアルト」

「ハッ!」


 右手を胸に当て、力強く返事をして頭を下げるルディさんだけど、その左手はまだ私の右手を握っていた。


 とても強く「もう二度と離さない」と、そう言われている気がした。


 そんな彼の隣で私も一緒に王に頭を下げ、祝福の言葉をお受けした。



「――ユリアーネ。私からも一ついいかな?」

「はい」


 続いて、ヴァイゲル公爵が私に声をかけた。

 ルディさんと二人でそちらに顔を向ける。


「息子の代わりに、いや……今は亡きお父上の代わりに、一つ教えておこう」

「……はい」

「本物の愛とは、無償のものなのだよ」

「……」


 にこりと、穏やかに微笑むその顔には父親の愛というものが感じられた。

 私にはもう随分昔の記憶しかない、それ。


「君の本当の両親も、かつては君にそうだったはずだよ。もちろん世の中には政略的な偽りの愛も溢れているが、我が息子が君に抱いているのは、最初から無償の愛だった。たとえ君が身一つでうちに嫁いできていても、ルディはそれを補う器量は持ち合わせているよ」


 堂々とそう言い放つヴァイゲル公爵は、ルディさんのことをとても信頼しているのだと、ひしひしと感じ取れた。


 私には、私たちには、とても心強い味方がいる。

 絶対的な無償の愛をくれる父や家族の存在。

 それに、この国の最高峰とも言える権力者たちがこうしてあたたかく私たちを見守ってくれているのだから。


 お父様、お母様……。私はなんて幸せな娘なのでしょう。


 隣を見上げると、愛しい人が優しく私を見つめて、微笑んでくれていた。


 国王も、宰相も、魔導師団長も、副師団長も。

 みんながあたたかく私たちに祝福の目を向けてくれている。


 私はもう、役立たずのユリアーネではない。


 自信も、誇りも、愛も持っているのだから――。



 彼と歩むこれからの日々を想像して胸を熱くさせ、私もルディさんに握られた手を強く握り返した。


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