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34.ノージュの森

 翌日、ノーベルク領の傭兵団と第三騎士団、そして私たち魔導師は、朝早くからノージュの森へ向けて出発した。



「ユリア、疲れたら無理をせずに言ってね」

「はい、ありがとうございます。ですが私はこう見えて結構体力には自信があるんです」


 森の中を進むのは徒歩になる。

 領主の館を出てからはずっとルディさんが私の隣についていてくれているけれど、私はそこらの箱入りご令嬢とは違うのです。

 毎日こき使われて育った体力は、並のものではありません。

 森の中は少し歩きづらいけど……。


「本当、過保護ですよね。団長さんは」


 そんな私たちを横目で見ながら、フリッツさんはわざとらしい溜め息を吐いた。


「当然だろう。ユリアは討伐に出るための訓練は受けていないのだから」

「でも僕が毎日みっちり鍛えてきたので、そんなにやわじゃないですよ。ねぇ、ユリア」

「ええ……、そうね」

「…………」


 ルディさんはフリッツさんのその言葉にわかりやすく顔をしかめた。対するフリッツさんは、その視線に気づかないふり(・・)をしている。


 私を挟んで、やめてください……。

 っていうかフリッツさん、やっぱり楽しんでますよね?


「あ、そういえば昨日の方はどちらにいらっしゃるのでしょうね!」


 この雰囲気を変えようと、私はぽんっと手を叩いてそう言ってみた。


「昨日の方?」

「ええ、昨日フリッツさんと――」


 そこまで言って、はっとした。


 もしかして、今フリッツさんと二人で出かけたなんて言ったら、ルディさんは嫌な思いをするのでは……?

 相手はいつも一緒にいるフリッツさんだから、今更何もないんだけど……。

 でも先ほどの様子からすると、あまりいい気はしないような気がする。


「ユリア?」

「ええっと……」

「ああ、昨日僕たちがデート中に会った彼だね!」

「!?」

「……デート?」


 けれど、焦る私の顔を見て、フリッツさんはにんまりと笑ってはっきりとそう言った。

 ルディさんは低い声でその言葉を繰り返す。


「デートではありませんよ! 少し街を見てきただけです! ねぇ、そうですよね、フリッツさん!!」


 手も繋いでいなければ食事もしていない。

 本当に街を歩いてきただけ。

 そして迷子の女の子を助けて、傭兵団の人と話をしただけ。

 なんならあれは、見回りだ……! お仕事だ!!


「えー? 僕はデートだと思っていたのになぁ」

「嘘言わないでください!!」


 にやにやと笑っているフリッツさんの様子を見るに、これは絶対にふざけているだけだ。

 そっとルディさんの顔色を窺えば、やはり彼は少し不満げにフリッツさんを睨んでいた。


「違いますよ、ルディさん! フリッツさんにからかわれているだけです!」

「……うん。それで、昨日の彼とは?」


 私の声が聞こえているのか、ルディさんは怖い顔をしたままフリッツさんに問いかけた。


「そのとき迷子の女の子を見つけて、たまたま会った傭兵団の人と一緒に母親を探してもらったんですよ。その人も今日この森に行くって言ってたから……、もしかして、もう一度会いたいのかな? ユリア」


 なぜそんな言い方をするんですか……!!

 会いたいわけじゃないです……!!


「団長さんとは全然違う雰囲気の、いかにも優しそ〜な人だったけど。ユリアって、本当はああいうのがタイプなの?」

「ち、違います……!! 私が好きなのはルディさんだけ――」


 なかなか魔物が出なくて暇なのか、フリッツさんの暇つぶしにまんまと乗ってしまった。


 それに気づいて言葉を途中で呑み込むけれど、たぶんもう遅い。


 そーっとルディさんの顔を窺うように視線を向けると、彼は少し怖い顔をして立ち止まっていた。


「傭兵団の男に会ったのか……?」

「……は、はい」


 突っ込むところ、そこですか? と、思わず自分で言ってしまいそうになったけど、ルディさんは少し焦ったような顔で視線を下げて何かを考え込んでいる。


「……ルディさん? どうしました?」

「あ……いや……、すまない。なんでもないんだ。まぁ、街なら平気だと思うが、この森はとても危険だから、傭兵団のところへ行くのはよくないな。実力は騎士団より劣るだろう。だからユリアは絶対に俺から離れないように」

「……はい」


 一瞬怖い顔を見せた後、すぐにいつもの笑顔に戻って再び歩みを進めるルディさん。


 どうやら先ほどの私の言葉は耳に入っていないみたい。


 それにしても、ルディさんはどうしたのかしら。傭兵団の方と、何かあったのかな。


「……焼きもちじゃない?」

「……うーん」


 フリッツさんは私の耳元でこっそり言ったけど、ルディさんの様子はやっぱり少しおかしいような気がした。




 *




 途中何度か休憩を挟みながら、数時間かけて森の奥へと進む。


 今のところ炎狐も他の魔物も出ていない。


 この大人数だから、向こうも警戒しているのかもしれない。


 そして昼食と取るために再び休んでいたときだった。


「いたぞ!! 炎狐だ!!」


 私たちがいた場所から少し離れたところで、叫び声が聞こえた。


 ルディさんもフリッツさんもすぐに立ち上がり、構えるようにそちらに身体を向けた。


 視界の先からは傭兵団の方たちが剣を振り、応戦している音が聞こえる。


「ユリア、君はここにいろ!」

「ですが……!」


 攻撃力や防御力を上げる強化魔法が使える魔導師たちが、速やかに騎士団に魔法をかけた。


 私も耐火魔法を……!


 そう思ってもたついている間に、ルディさんとフリッツさんはあっという間に行ってしまった。


 ……早い!!


 けれど、ここでおとなしくしていては一緒に来た意味がない。

 私は森へピクニックをしに来たわけではないのだから。


 覚悟を決めて自分に耐火魔法をかけ、二人を追った。


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