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29.どうやらお役に立てました

 昨日やったように空間に魔力を流し、部屋全体の空気を入れ替えるようなイメージを送る。


「……これは!」


 陛下の驚きを含んだ声と、部屋全体に自分の魔力が行き渡った感覚に、私は力を抜いて目を開けた。


「これはすごい……本当に部屋が涼しくなった」

「まさかここまでとは……」


 驚きに目を開き、手を掲げて何かを確かめているような動作を見せる国王と、その隣で同じように驚いた様子のヴァイゲル公爵。


 ルディさんとローベルト様は誇らしげに頷いてくれた。


「感謝するぞ、ユリアーネよ。何か礼がしたい。望みを申してみよ」

「いいえ、既にいただいているようなものです。私はヴァイゲル公爵様を始め、皆様にとてもよくしていただいております。それにこの力を使えるようになったのはローベルト師団長様やフリッツ副師団長様のおかげなのです」


 国王から礼を言われるだけでも恐れ多いこと。


 恐縮して再び頭を下げれば、王は「ふむ……」と考えるように唸った。


「謙虚な娘だな」

「ええ、まったくです」

「……」


 国王の言葉に笑顔で頷くヴァイゲル公爵。


「ローベルト、確か魔導師団は費用の追加申請を出していたな」

「はい」

「では、すぐに手配しよう。その代わりと言ってはなんだが、私や息子たちの部屋にもその魔法をかけてくれまいか?」

「……よろしいのですか?」

「構わん。どうやら魔導師団は素晴らしい成果を挙げたらしいからな」


 通常、提出した申請がこのようにすぐ承認されることは少ない。

 ローベルト様は私に視線を向けると、穏やかに微笑んでくれた。


「――仰せのままに」


 それを受け、改めて国王にお応えする。


 その後、国王、王妃、王太子、それから宰相の部屋にも順番に魔法をかけていった。


 国王の部屋に入るというだけでとても緊張したけれど、さすがに連続で広い部屋にこの魔法を使っていったためか、終わる頃にはすっかり疲れ果ててしまった。


 少し張り切りすぎて、無理をしてしまったかもしれない。

 けれど国王はとても感謝してくれたから、頑張ってよかった。


 このように国王から直接感謝していただける日が来るなんて、誰が予想したかしら。

 もしこの未来を知っていたら、義父や義姉の態度は違っていただろうか。


 ……ううん。そんなこと考えても無駄ね。この力を最初にすごいと言ってくれたのは、ルディさんよ。


 彼が私を見つけてくれて、救い出してくれた。

そしてその家族が私をここへ連れてきてくれた。

 その仲間が一生懸命私に魔法を教えてくれて、このような結果に繋がったのだから、もう過去は振り返らない。




 *




「送っていただいて、ありがとうございます」

「大丈夫そう?」

「はい、少し休めば回復すると思います」


 その日は早めに帰り、先に部屋で休ませてもらうことにした。

 部屋の前まで送ってくれたルディさんにお礼を言うと、彼は何か言いたげな瞳で私を見つめた。


「どうかされました?」

「いや……、ゆっくり休むといい」

「……はい、ありがとうございます」


 何か他にも思っていることがあるような気がしたけれど、ルディさんはそれだけ言うと笑顔を残して行ってしまった。


 なんだろう……?

 少し気になるけれど、あの様子だと言いたくないのかもしれない。また今度聞いてみようかしら……。


 そんなことを思いつつベッドに身体を倒して、今日のことを思い返す。


「……」


 みんなとても喜んでくれたけど、もう少しスムーズに使えるようにならないとだめね。それにこの程度で疲れていては……。


 今朝騎士団の方たちにもお願いされたけど、さすがにその規模に使っていてはすぐに倒れてしまうかもしれない。


 持続時間も気になるところ。すぐに効果が切れてしまえばかけ直さなければならないのだから。

 効果を長くできるようにしないと、さすがに大変ね……。


 そんなことを考えながら、私は眠りについた。




 *




 そして翌日からは、力の強化と訓練がてら王城内の主要な部屋から空間温度調整の魔法をかけていくことになった。


 師団長室や騎士団長室もそこに含まれ、ハンスさんは「団長室から出られなくなりそうだ」と言っていた。


 申し訳ないけれど、騎士団の棟は広すぎて全体にかけるというのはまだ無理そう。


「闇雲にかけるんじゃなくて、ちゃんと集中して。一つ一つ訓練だと思って意識してやるんだ」

「はい」


 フリッツさんは手が空いているかぎりそれに付き合ってくれた。


 調理場や食材庫にも優先的に魔法をかけさせてもらうと、料理人の方たちはとても喜んでくれた。


 特に調理場は火を使うからとても熱くなるようで、目に涙を浮かべて喜んでいる方もいた。


 そんなに喜んでもらえるなんて、本当に嬉しい。

 大袈裟かもしれないけれど、私が生きている価値というものをようやく認めてもらえた気がする。


 ……本当によかった。みんなは私にお礼を言ってくれるけど、その分私はフリッツさんやローベルト様、ルディさんたちに感謝の気持ちを忘れないようにしなければと、胸に刻んだ。



 持続時間が切れると再びかけ直す。という日々を繰り返し、次第に効果時間も三日ほどだったのが五日になり、今では一週間にまで伸びていった。


 かけすぎるとやはり疲れてしまうけど、最初の頃よりもだいぶスムーズに使えるようになり、魔導師団の食堂程度の広さにならかけられるようにもなった。


 騎士団の棟までは、あと少しかな。


 もう少し待っていてくださいね、騎士団の方たち!


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