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27.快適な空間に変えましょう

 季節は夏本番を迎えている。


 うだるような暑さが続き、空調設備の悪い魔導師団の棟ではみんなすっかりだれてしまっていた。


 魔導師ならではというべきか、氷魔法が使える者が氷の塊をあちこちに置き、少しでも部屋の温度を下げようとしているけれど、やはり窓が開けられないのは辛い。


「……皆さん暑そうですね」

「そうだねぇ……」


 その様子を見て、練習を兼ねて耐熱魔法をかけている私とフリッツさんはどうしたものかと頭を悩ませた。


 自分たちだけ涼しい思いをしているというのは、なんとも後ろめたい。


「今年は特に暑いからね」

「ローベルト様……」


 この様子に溜め息を吐きながら、自らも暑そうに表情を歪めている師団長。


「できれば君に魔法をかけてもらいたいが、さすがに魔導師団員全員にというわけにはいかないしなぁ……」

「……そうですよね」


 ローベルト様は私の耐熱魔法の効果を知っている。せっかく習得したのだから、みんなの役に立ちたい。けれど、全員にかけるのはさすがにまだ難しいし、誰にかけて、誰にかけないかを考えるというのも気が引ける。


「……そうだ」

「どうしたの?」

「この部屋全体の温度を保持する、というのはいかがでしょうか?」

「……ほう」


 物や人に使えるのなら、空間にも使えるかもしれない。

 それに私は今や、温度を保つだけではなく調整することもできるようになったのである。


 だからこの部屋全体を快適な温度に保てばいいのではないだろうか。


「……うん、面白そうだね」


 フリッツさんは少し考えた後、にっと口角を上げて頷いた。


「では、あくまで訓練ということで。やってみようか」

「はい!」

「でもあまり無理はしないようにね」


 師団長の許可を得て、私は力を集中させた。


 今までは目の前にある小さな物や人が対象だったけど、今回は範囲が広いから少し時間がかかりそう。


「……」


 目を閉じて、この部屋全体の温度を適温に保つようイメージしながら魔力を流す。

 こういうことは意識の集中とイメージがとても大切なのである。


「師団長、これは……」

「ああ……、成功しているようだ」


 フリッツさんとローベルト様の声に、私は放出させていた力を止めて目を開けた。


「……ん? なんか急に暑くなくなったぞ?」

「本当だ、誰か窓開けたのか?」

「いや、開いてない」

「あー、快適だー! これなら仕事もはかどりそうだな!」


 だれていた団員の方たちも室内温度の変化に気がつき、各々声を上げている。


「……なぁ、ユリアーネ。もしかして君が……」


 そんな中、一番近くに座っていた団員の一人が、私たちの様子に気がついておそるおそる声をかけてきた。


「……」


 返事をする代わりに微笑んでみせると、彼はそれを肯定と受け取って驚きに目を開いた。


「まさか……! おい、みんな! これはユリアーネがやったらしいぞ!!」

「本当か!? じゃあ、この部屋の温度を変えてしまったということか!?」

「いつの間にそんなことが……!」

「ああ……っ、えーっと」


 大きな声で言われてしまったため、一気に広まってしまった。

 視線を受けて照れくさい気持ちになるけれど、みんな口々に感謝の言葉を述べてくれた。


「ありがとう、ユリアーネ!」

「君のおかげで仕事がはかどるぞ!」

「本当に助かったよ」

「よかったね、ユリア」


 フリッツさんとローベルト様にも微笑まれて、私の心はあたたかくなる。


「はい!」


 こんなふうに誰かの役に立てて、感謝される日が来るなんて。

 本当に私は王宮(ここ)に来てよかった。

 ルディさんに出会えて、よかった。


「さぁ、それでは今日も励んでくれ!」


 何人かはまだ騒いでいたけれど、ローベルト様がパン――ッと手を叩いて団員たちにそう声をかけた。


 その声にみんなは一斉に返事をして、私もフリッツさんとともに部屋を出ていつもの実験用魔導室へと向かった。




 *




 もちろん私たちが使っている魔導室も適温にし、実験用のマウスに耐熱魔法をかけて、より強い耐性が作れるよう練習した。


 この応用で、耐火効果も習得できたら火傷を負わずに済む。魔物の中には火を吐くものもいるのだ。


 そしてお昼になると、ルディさんが昼食に誘いに来てくれた。


「……なんだかこの部屋、いつもより涼しい気がするんだが……」


 いつも他の棟よりも暑い魔導室の気温に気がつき、ルディさんは私に視線を向けた。


「はい。ご想像の通り、空間にも魔法が使えました」

「やはりそうか……。しかしすごいな、ユリアの魔法はどんどん強化されていく」


 はにかんで答えれば、ルディさんは感心したような、驚いているような顔で唸りながらそう言った。


 これもすべて、あの日ルディさんが私をあの家から連れ出してくれたおかげなのです。


 心の中でそう呟いて、改めてルディさんに感謝した。


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