25.暑さ対策に
それからも数日間、私は耐熱耐寒の魔法を習得するために日々勉強をしながら何度も訓練を繰り返した。
そして一週間ほどで、ついにそれを習得することができた。
「うん、マウスの体温は変わらないね。きちんと維持されているし、持続時間も長そうだ」
「はい。それに苦しそうな様子も見られないですね」
「ああ、これはすごいことだよ、ユリア!」
実験用のマウスにその魔法をかけて効果の確認を取ると、フリッツさんはとても興奮した様子で言った。
私の力が少しずつ、認められていく。
それは素直に、とても嬉しい。
それからこの結果は、すぐにローベルト様にも報告された。
「これはすごい……。まさか本当にここまで伸びるとは」
ローベルト師団長は、それを目の当たりにして驚きの表情を見せた。
「ユリアーネ、君の力はとても素晴らしいものだ。それにこの短期間でここまで成長するとは、正直思ってなかったよ」
「フリッツさんやローベルト様のおかげです」
「きっと人への耐性効果も期待できるだろう。そうなればいずれ、騎士団とともに地方へ派遣要請が出るかもしれない。君はそれでも、このままその力を強化する気はあるか?」
「……」
それはつまり、討伐隊に加わることもあるということだ。
「もちろんその際は、ルディに……第三騎士団とともに行けるよう、私のほうからも配慮する」
現実的なお話を聞いて、少し不安になる気持ちも湧いてしまうけど、ここまでしていただいたのに今更お断りする気はない。
「大丈夫です。私は、この国のために……ローベルト様やフリッツさん、それにルディさんたちにご恩をお返しできるのなら、精一杯尽力させていただきます」
「……ありがとう。だが、まだまだ訓練は必要だよ」
「はい!」
それにしても一先ずここまでよく頑張ったね。そう言って、ローベルト様はフリッツさんと私を労ってくれた。
*
あたたかい風が吹くようになり、季節は夏を迎えようとしていた。
まだ初夏だというのに、今日は暑い。
魔導室は基本、窓を開けることを禁じられているので、風の通りも悪く尚のこと暑く感じる。
「そうだわ」
そこで私は思いついた。
この力って、もしかしたらこういうことにも役立ったりして……?
人体実験を行うのなら、やはりまずは自分で試してみるのがいいのではないだろうか。
そう思い、軽い気持ちで自分の身体に耐熱効果の魔法をかけてみた。
「…………」
特に何も変化は感じられないけれど、先ほどまでの夏特有の熱気も感じない。というか、嫌な気がしなくなった。
「これは、すごいかもしれない……!」
おかげで、徐々に汗も引いていく。
試しに立ち上がって身体を動かしてみても、全然暑くならない。とても快適な温度が保たれているのがわかる。
……これは!
すごい。こんな使い方があったなんて……!!
「おはよー、ユリア。今日は暑いねー」
「フリッツさん。おはようございます」
一人でこの力の有能さに興奮していると、手で首元を仰ぎながらフリッツさんが部屋に入ってきた。
「ん? なんだかユリアは涼しい顔をしているね。暑くないの?」
「ふふふ……。私はすごいことに気がついてしまいました」
「え? なになに?」
「耐熱魔法を自分にかけてみたのです。そしたら思った通り、この暑さが苦ではなくなりました!」
少し誇らしげに言うと、フリッツさんからは「おお!」という期待に満ちた眼差しが返ってきた。
「僕にもかけてみて!!」
「はい、ではいきますよ」
他人にかけるのは少しドキドキするけれど、きっと大丈夫。
フリッツさんにも耐熱魔法をかけると、彼も私と同じようにこの気温に適応し、顔を和ませていった。
「本当だ! これはすごい!!」
「これでこの夏は安心して乗り切れそうですね」
「うん! 真夏になるとこの部屋は本当に暑いからね。助かったよー! ありがとう、ユリア!」
「いいえ、お役に立てて嬉しいです」