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23.ルディさんのお兄様

「ここでの暮らしにはもう慣れたかい?」


 馬車で向かい合わせに座りながら、ローベルト様が口を開いた。


「はい。ローベルト様がとてもよくしてくださるので。それに魔導師団の皆さんも本当にいい人ばかりですよね」


 騎士団の方たちに比べると、おそらく魔導師団の方たちは内向的な者が多い。(フリッツさんのような例外もいるけれど)

 それでもみんな、付き合ってみるととてもいい人たち。

 私に嫌な顔をする人は一人もいない。とても居心地がいい。


「そうか。それはよかった。君のことはルディから預かっているからね。魔導師団で何かあったら、怒られてしまう」


 確かに、師団長様の弟の婚約者と噂されている私に嫌がらせしてくるようないい度胸をした人は、魔導師団にはいないだろうけど……。


「ルディさんは、大丈夫でしょうか」

「ん?」

「残って仕事をされるのは、珍しいと思って……」

「ああ、どうやら北の森に魔物が出たらしい。第三騎士団はその対応に追われているようだ」

「え……」


 この世界には魔物が存在する。けれどこの国の周辺は比較的穏やかで、ここ数年はあまり大きな被害も出ていない。

 だからどこか遠くの世界の存在のように感じていたけれど、やはり現れることもあるのね。


「……その、大丈夫でしょうか?」

「うん、近くの町の傭兵団で対処したようだし、大きな被害も報告されていない。だが、今後調査に向かわなければならない可能性はあるな」

「……」


 ルディさんは騎士だから、当然なのかもしれない。けれど、やはり心配。


「大丈夫だよ。私の弟はあれで結構腕がいいからね」

「はい……」

「心配?」

「それはもちろん……」


 ルディさんの力を侮っているわけではないけれど、ローベルト様だって弟が心配ではないのだろうか。

 なんだか楽しそうににこにこしている気が……。


「君のその顔、ルディに見せてあげたいよ」

「え?」

「ユリアーネが心配してくれたと知ったら、あいつは喜ぶだろうなって」

「……か、からかわないでください……」


 くくく、と楽しげに声を漏らして笑う師団長(お兄様)に、私の顔は少し熱くなる。


「ルディはあの顔だろ? それに子供の頃から抜きん出た力と家柄のせいで、女の子にモテてねぇ」

「……」


 そう言って語り出すローベルト様の顔も、結構ルディさんに似ているし、とても甘いマスクの持ち主だと思う。


「けれどあいつはそういう権力に群がってくる女性が苦手だった。それで女の子の前ではわざと怖い顔をするようになって、どこか近寄りがたい雰囲気を持つようになったんだ」


 遠くを見るように窓の外に視線を向けるローベルト様のお話を、真剣に聞いた。

 ルディさんの子供の頃のお話には興味がある。


「まぁそれが逆に魅力的だと感じる女性もいたが、とにかくあいつは女性が苦手になってしまった。それで年頃になっても社交界にはあまり顔を出さず、自分は結婚する気がないから婚約者も作らないと言い出して、父や母を困らせていたんだ」

「……そうだったのですね」

「まぁ、仕事だけはしっかりこなしていたから。若くして団長にまで上りつめたし、部下や同僚には結構慕われているんだけどね。それに自分を詳しく知らない民には、女性であっても親切だし」


 それは、なんとなくわかる。

 義父に社交場へ連れていってもらえなかった私はルディさんのことを知らなかったし、ルディさんは部下の手紙を見回りついでに届けてくれていたのだから。


 私には最初からそんなに怖い顔をしていなかったけど、それは私が部下の婚約者であったからだと思う。


「なるべく自分のことは語らないようにしているから、君も最初はあいつのことをよく知らなかっただろう?」

「はい。〝ルディ〟としか名乗ってくれませんでした。それに、とても気さくに話してくれていましたし」

「だろうね。でも本当に驚いたよ。ルディが結婚したい女性がいるからうちに連れてきていいかと急に言い出したときは」

「……」


 おそらく、あの日だ。

 私が婚約破棄をされた日。

 ルディさんを追い返してしまったのに、再び私を迎えに来てくれた、あの日――。


「君の事情を聞いて正直驚いた。けれど、あのルディがそうまで言う相手なんだ。反対する者は、私たち家族にはいなかったよ」

「……ローベルト様」


 なぜヴァイゲル公爵家の人たちがあんなにあたたかく私を迎え入れてくれたのか……ずっと不思議だったけど、そういう事情があったのね。


「だからいつか君が私のことを〝兄上〟と呼んでくれる日がきてくれたら私も嬉しい。ルディは私のただ一人の可愛い弟だし、君と一緒にいるときのルディは本当に幸せそうに笑うから」

「……」

「あんな笑顔を見せられたら、やはり君との結婚を反対できる者は私の家族にはいないだろう。どうか弟を幸せにしてやってくれと、願ってしまう」


 とても優しい兄の顔でそう言って青銀色の瞳を私に向けるローベルト様に、なんと言っていいのかわからず俯いてしまう。


 でも、こんなふうに思ってくれる家族がいるというのは、とても幸せなこと。


 ルディさんを羨ましく思ってしまう反面、私もこの人たちと家族になりたいと、心から思った。


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