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22.力の使い方

「ねぇユリア。君のその力、人にも使えないかと思ってるんだけど」


 魔導室で、フリッツさんが唐突に私に言った。


 王宮で魔法を学ばせてもらい始めてから、ふた月が経った。


 あの後、ルディさんの兄上であり、魔導師団長のローベルト様が私に新しいローブを用意してくれて、例のご令嬢三名はしばらくこの王宮への出入りが禁止となったらしい。


 気持ちを新たに魔法の勉強に励み、最初は物質の温度保持しかできなかった私の力は、今では温度調整も自在にできるようになり、その発動速度も日に日に速くなってきている。


 そしてそんなある日、私の訓練に付き合ってくれている魔導師団副団長のフリッツさんは、そんなことを口にした。


「人に……ですか?」

「そう」


 言われて、ふと想像してみる。

 この力を人に使うとは、どういうことだろうか。

 体温を上昇させて、殺してしまうとか……?

 逆に、低くして殺めることも可能だったりして……?


「えっ、私、戦闘要員ってことですか!?」


 役に立ちたいとは思っている。今は師団長様たちのおかげでこうして勉強することができているけれど、その恩を返さなければと思い、頑張ってきたのだから。


 けれどいきなり戦闘要員になるというのは、正直考えていなかった。

 基本、戦場で戦うのは騎士団だ。魔導師団もそのアシストのために同行するけれど、まさか私の力が戦地や魔物討伐で役に立つとは思っていなかった。


 でも国の役に立てるのならば、仕事をもらえるのならば、もちろん私はお断りするつもりはない。

 それにもしかしたら、騎士であるルディさんとともに戦う、ということもあり得るかもしれない。


「戦闘要員になるにはもっと訓練が必要だけど……。もしかしたら君は耐熱や耐寒魔法を習得できるかもしれない」

「耐熱、耐寒……」


 なるほど。早とちりしてしまったけれど、そういうことか。


「そうすれば騎士たちは寒い土地や暑い場所でも楽に活動できるだろう? 今でも装備で補うことはできるし、そういう効果魔法を使える者もいるにはいるが、数が少ない。それに君は効果持続時間がとても長い。一度かければそう何度もかけ直す必要がないから、とても助かるんだよ」


 ……それはすごい。

 他人事のように感心してしまったけれど、ぜひ使えるようになって皆さんのお役に立ちたい。


「わかりました。やりましょう! やってみましょう!! ぜひやりたいです!!」

「お、いいね。さすがユリア! じゃあまずは動物で試してみよう」

「はい!」



 そういうわけで、私たちは部屋を移動して魔導師団で飼われている実験用のマウスをお借りし、体温保持の魔法をかけてみた。

 そしてその場の温度を上げたり下げたりして、マウスがどう反応するか、体温はどうなるか、などを繰り返し調べた。



「――うーん。まぁ、そんなにすぐにはうまくいかないか」

「……すみません」

「いや、これからだよ。明日もやってみよう」

「はい」


 実験は失敗だった。体温保持はできたけど、耐性がつくとまではいかなかったのだ。


 けれどこういうことは繰り返し何度もやってみることが大切らしい。

うまくコツを掴めれば、案外簡単に習得できたりすることもあるのだとか。ならば私はとにかくやり続けてみるだけだ。


「はかどってるか?」

「師団長」


 日が暮れてきた頃、ローベルト様がひょっこりと姿を見せた。


「いい感じですよ。まぁ、耐性効果はまだこれからですけど、ユリアの力はどんどん強力なものになってますからね」

「ふむ」


 ルディさんより少し長めの、同じ色の髪を揺らしながら、ローベルト様は結果を記した報告書に目を向けた。


「確かに君の成長は著しいな」

「ありがとうございます。フリッツさんや皆さんのおかげです」

「この調子で頑張ってくれ」

「はい!」


 ルディさんよりも大人びた表情で、師団長は私に優しい笑みを向けてくれた。


「ところで師団長、何か用事ですか? 報告書なら後でも見れるでしょう?」

「ああ、もう終わったのなら、ユリアーネと一緒に帰ろうと思ってね」

「え?」


 フリッツさんの問いかけに、師団長は私に顔を向けて言った。


 帰る家は確かに一緒だけど、こうしてローベルト様が迎えにくることは珍しい。

 いつもは、ルディさんが迎えに来てくれて一緒に帰っている。


「ルディはまだ仕事が終わらなさそうなんだ。今日は宿舎に泊まるかもしれないと言っていたから、君のことは私が送ろう」

「そうなのですね」


 考えが顔に出てしまっていたのか、口元に小さく笑みを浮かべてルディさんのことを教えてくれるローベルト様。

 そういえばルディさん、今日はお昼も誘いに来なかったけど、忙しいのかしら。


 そんなことを考えながら帰り支度を整えて、私はローベルト様とともに馬車へ乗り込んだ。


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