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15.居場所

 そして翌日、ルディさんとその兄ローベルト様とともに、王宮へ向かうことになった。


 ローベルト様が紹介してくれたのは魔導師団副団長のフリッツ・ノードという方。


 人懐っこい顔つきの、深緑色の髪と瞳をした青年。

 歳も私と近いように思う。


「師団長から話は聞いてるよ。まずはあなたの力を見せてほしい」


 副師団長さんは魔導部屋の一室に私を連れて行くと、軽い口調でそう言った。

 私の力がどの程度のものなのか話は聞いているようで、わかりやすいようにとそこにはお鍋に入った水が用意されていた。


「今からこれを火にかけるから、沸騰しないようにしてほしい。できる?」

「……たぶん」


 いつも料理に使うのはどちらかというと逆のことだけど、おそらくやればできるも思う。


 言われた通りお水に魔法をかけ、その冷たさを保つようにした。


「……ふーん。本当に水のままだ。これはすごい」


 十分経っても二十分経っても変わらない温度に、フリッツ様は驚いたように声を上げて唸っている。


「それほどすごいことではございません……何もないところから水やお湯を出せるわけでもないですし、もっとすごい魔法を使える方はたくさんいらっしゃいますよね?」


 ルディさんといい、ローベルト様といい、このフリッツ様といい。なぜそうまでも感心するのだろうかと、逆に恥ずかしくなってしまう。

 義父はこの力を「大したことはない」と、馬鹿にしていた。


 けれど私の反応を見てフリッツ様は「いやいや」と声を張った。


「それは確かに、もっと実践的な強い魔法を使える者はいる。でもこれは、とても貴重な力だよ。今までは何も勉強せずに料理にだけ使っていたんだって?」

「はい……」

「それは本当にもったいない! これはきっと磨けば光るよ!!」

「……」


 フリッツ様の迫力に圧倒されて、身体が後ろに反り返る。


「今は保持しかできないんだってね」

「……はい、調整することはできません」

「うん。でもそれも練習次第でできるようになるだろうね」


 フリッツ様は「他にももっと実践でも役立つ力になるかもしれない」と、とても楽しそうに呟いた。


「久しぶりにすごくやる気が出てきた……! 僕のことはフリッツと呼んでいいからね。敬称も必要ないから。僕もユリアって呼んでいい?」

「え……っ、は、はい」

「それじゃあこれからよろしくね、ユリア!」

「……よろしくお願いいたします、フリッツ……さん」


 にこり、ととても可愛らしく微笑んで手を差し出されて、それにお応えすると力強く握られた。


 その笑顔に私も釣られて微笑んで、この先の未来に期待して胸を弾ませる。


 本当にフリッツさんの言うように、実践で役立てるような力に目覚められるかはわからないけれど、頑張ってみようと思う。


 それから魔導学の先生を紹介され、私はこれから実技と学科の両方から魔法を学んでいくことになった。



 ついこの間までの生活からは考えられないようなことが起きている。

 王宮で、私専属に講師がついて魔法を学ぶことができるなんて。

 一年前の私からはとても想像できなかった。


 あの家から出るために誰でもいいから結婚して、その相手のためにひっそりと生きていく。


 それが私の幸せだと、義務だと、思っていたのに。


 こうして新たな道が開けたのも、ルディさんのおかげだわ。


 本当に、彼には最初から感謝してもしきれないほど恩を感じている。

 これ以上迷惑をかけないようにと思っていたけれど、もし叶うのならルディさんの役に立ちたいと思う。

 この恩を返せるのなら、それほど嬉しいことはない。




 *




 それからはヴァイゲル邸にお世話になりながら、毎日王宮に通って魔法を勉強する日々が続いた。


 ヴァイゲル邸にただでお世話になるのは心苦しいので、なんとかお願いして食事の準備を手伝わせてもらった。


 それに、やはりこの力を役立てる最高の機会は今のところ料理にある。


 フリッツさんとの訓練のおかげで、少しずつできることも増えてきた。


 訓練を初めて二週間で、私は火を使わずに水をお湯に変えられるようになったのだ。


 それに食材の鮮度も保つことができるから、使用人の方たちはとても喜んでくれた。


 もちろんその食事を召し上がるルディさんやヴァイゲル公爵様たちも、前より新鮮であたたかい料理を食べることができるようになったと感動してくれた。


 本当に少しだけど、お役に立つことができてよかった。

 この屋敷の方たちは私の知っている……フレンケルのような貴族の家庭とは違う。

 それよりも高位な方たちなのに、偉ぶることなく、とても優しく、他人に思いやりを持っている。

 私利私欲に溺れたフレンケルとは比べようもない。


 それでもルディさんの正式な婚約者ではない私は居候という立場をわきまえて生活を送っていたけれど、ヴァイゲル公爵をはじめとしたこの屋敷の方たちは


『なんの遠慮もいらないよ。私たちを本当の家族だと思ってくれ』


 と言って、家族がともにする場に必ず私をお誘いしてくれた。


 あの日、ルディさんは結婚したい女性ができたから連れてきたいと、家族に私の事情を説明したようだ。

 私の事情を聞いても反対されなかったなんて信じ難いけど、どうやらそれは本当みたい。


 ルディさんといい、この家の方たちは本当にいい人ばかりで、胸がとてもあたたかくなる。


 ご家族がこう言ってくれるのなら、私はルディさんのお気持ちにお応えしてもいいのだろうか……?


 思わずそう思ってしまった。


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