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14.温かいスープとその力

 私には勿体ないくらいの広さがある部屋に通されると、侍女が軽食と飲み物を用意してくれた。


 着替えも既に用意されている。


「他にも何か必要なものがあればお申し付けください」

「……ありがとうございます、十分です」


 丁寧に礼を述べると、向こうも深々と頭を下げて部屋を出ていった。


「……」


 きっとお腹も空いているはずだけど、あまり食欲がない。


 ……今日は疲れたわ。

 色々なことがあって、長い一日だった。


 ふかふかのベッドに身体を倒した私は、いつの間にかそのまま眠りについていった。




 *




 布団が心地よかったからか、とてもぐっすり眠った。やっぱり疲れていたんだと思う。


 それでもいつものように日が昇るのと同時に目が覚めて、私はそっと部屋を出た。


 いい匂いが鼻をついたからそちらへ行ってみると、調理場で使用人の方たちが忙しなく朝食の支度をしていた。


「これはユリアーネ様、おはようございます」

「……おはようございます」


 私の話が通っているらしく、給仕長らしき人が挨拶をしてくれる。


「お目覚めになられたのですね。ルディアルト様はまだお休みですが、よかったら食堂でお待ちください」


「あの……、もしご迷惑でなければ、何かお手伝いできることはありますか?」

「とんでもない、あなた様にそのようなことはさせられません」

「そのほうが落ち着くのです。もちろん、お邪魔ではなければですが……」

「……では」


 昨日までは毎日朝食を作るのが日課となっていた。だから急に何もしなくていいと言われても、逆に落ち着かない。

 それに、私には温度保持の魔法がある。ささやかだけど、少しでもお役に立てるかもしれない。


 そう思い、朝食作りのお手伝いをさせてもらうことにした。





 朝食の準備が整った頃、ヴァイゲル公爵家の方たちが順番に起きてきてテーブルに着いた。

 最初にやってきたのはルディさんで、私を見ると「早いね」といつもと同じ爽やかな笑みを浮かべてくれた。

 こうして朝からルディさんと顔を合わせるのは、なんだか不思議な感じがする。


 それから一人一人に挨拶をして、促されるままに一緒のテーブルに着いた私は、ヴァイゲル家の方々とともに食事をさせていただいた。


 ルディさんのお父様、ヴァイゲル公爵は、まず野菜と鹿肉のスープを一口飲んで顔色を変えた。


「今日のスープはまだあたたかいな。まるで出来たてのようだ」

「実は、今朝はユリアーネ様が料理を手伝ってくださいまして……」

「む? ユリアーネ嬢が?」


 その言葉を受けて給仕長がヴァイゲル公爵に言葉を返す。


「勝手なことをして申し訳ありません。私が無理を言ったのです」

「いや、そんなことを言っているのではないよ。それより、これはどうやって……」


 まだあたたかいスープの器に触れて、公爵は不思議そうに唸っている。

 それに続くように皆さんもスープを飲んで驚きに目を開いた。


「ほんとうだ! それにいつもよりおいしいよ!」


 カイ君が嬉しそうに声を上げるのを見て、ルディさんが口を開く。


「彼女の魔法だよ」

「魔法……か。なるほど。これはすごい」

「いえ、私は温度を保つことができるだけです。そんなに大したことではございません」


 ヴァイゲル公爵のお言葉に恐縮し、すぐに言葉を続けた。


「いや、やはり俺ももったいないと思うんだ」

「……うむ。そうだな」


 ルディさんの言葉に頷くと、ヴァイゲル公爵は長男のローベルト様に目配せをした。するとローベルト様はルディさんと同じ青銀色の瞳を私に向けて口を開いた。


「ユリアーネ嬢。あなたはこの力を伸ばしてみたいとは思いませんか?」

「え……っ? それは、はい……」


 もちろん、魔法にもこの力にも興味はある。それに、もしも本当にこの力を伸ばすことができるのなら、もっと役に立てるようになるかもしれない。そうすれば、働き口も見つけやすくなるだろうし。


「では、勉強してみませんか?」

「勉強……ですか?」

「ええ。私は宮廷魔導師団で団長の職を担っているのですが、あなたの力はとても興味深い」

「魔導師団長様……?」

「はい」


 ローベルト様の言葉に驚き、ルディさんに目を向ける。彼はただ穏やかに微笑みながら頷いている。


「私なんかが、そんな……。お恥ずかしいのですが、お金もありませんし……」

「それは構わないよ。あなたのような特別な力をお持ちの方には、魔導師長の推薦があればいいからね。それにあなたはフィーメル伯爵の娘だ。身分も保証されている」

「ですが……」


 学びたいとは思うけど、もし伸びなければ……?

 やはり大したことはなかったと、この方たちを失望させてしまうのではないだろうか。


「ユリアーネ。君がやってみたいか、やりたくないか、それだけの話だよ」

「……」


 俯く私にそう声をかけてくれたルディさんのあたたかな視線に勇気をもらい、私はローベルト様に向き直って頷いた。


「学んでみたいです。どうぞ、よろしくお願いいたします」

「うん、では早速そのように話を通しておこう」


 ルディさんを少しだけ細くしたような体躯の、同じ髪色をしたローベルト様にその場で頭を下げて、私は願ってもいなかった事態に胸を熱くさせた。


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