13.ヴァイゲル公爵家の人たち
「おかえりなさいませ、ルディアルト様」
ヴァイゲル公爵邸に着くと、すぐに使用人たちが出迎えてくれた。
王宮からも近く、フレンケル家よりも遥かに大きく立派な屋敷に、私は思わず息を呑んだ。
やはり私はとんでもない方にご迷惑をおかけしてしまったのね……。
「彼女は腕を痛めている。手当してやってほしい」
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
「……」
ルディさんの指示で侍女の方に促され、私は通された一室で手当を受けた。
とても丁寧なのに、テキパキとしていて動きに無駄がない。
さすが、高位貴族の家の使用人。
手当が終わると侍女は私に一礼し、ルディさんを呼んできた。
「ユリアーネ、疲れているところ悪いが一緒に来てくれ。家族に君を紹介したい」
ルディさんは私のもとへ来ると、そう言って手を差し出してきた。
紹介……? もちろん、お世話になるのだから挨拶の一つくらいしなければならない。
けれどやっぱり緊張する。私はルディさんに不釣り合いなことはわかっているけれど、それでもルディさんの家族に嫌な顔をされるのは、できれば見たくない。
それに、その手はなんでしょう……?
「さぁ、どうぞ」
「……はい」
笑顔でもう一度手をぐっと私に向けてくるルディさんに、覚悟を決めてお応えする。
エスコートしてくださるなんて……。
家族の方に私をなんと紹介するつもりかしら。
まさか、〝婚約者です〟なんて言われないわよね?
あたたかいルディさんの手を掴んで、私は二つの意味で緊張しながら長い廊下を歩いた。
*
「あらルディ、おかえりなさい」
「ただいま戻りました」
到着した広間には、男性が二人と女性が二人。それから五歳くらいの男の子が一人いた。
男性は皆、ルディさんと似た色の銀髪をしている。
「ルディ! おかえりー!」
「ああ、カイ。ただいま」
その男の子はルディさんを見るなり駆け寄ってくると、脚にしがみつくように抱きついた。
ルディさんがその子の頭を撫でると、若いほうの女性が「カイ、おいで」と言って男の子を捕まえた。
「……」
目が合うと、私ににこりと笑みを浮かべてくれる。
とても綺麗な人だわ……。
「みんな集まっているね。紹介します、彼女がユリアーネ・フィーメル嬢です」
「ユリアーネ・フィーメルでございます。このような御無礼と突然の来訪、申し訳なく思います」
ルディさんの紹介を受け、深々と頭を下げて膝を折った。
高価な洋服は義姉に取られてしまっていたから、今の私はこのような高貴な方たちへ挨拶するのに相応しい格好すらしていない。
とても恥ずかしく、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「よく来たね、ユリアーネ嬢。この屋敷の当主、ベルンハルト・ヴァイゲルだ。どうぞ楽にしてください」
「恐縮でございます、ヴァイゲル公爵様」
ルディさんのお父様、ヴァイゲル公爵は、とても穏やかな口調でそう言ってくれた。
お許しを得て、私は顔を上げて姿勢を正した。
「ルディの兄、ローベルトです。こちらは母のリーゼルと、妻のローザ。それから息子のカイルです」
続いて、若いほうの男性が口を開いた。ルディさんのお兄様なのね。そして、お母様とお義姉様。甥っ子が紹介された。
「カイって呼んでね、ユリアーネ!」
「こら、失礼よ」
母親に手を掴まれながら、男の子――カイ君はもう片方の手をヒラヒラと振りながら私に微笑んでくれた。
天使のように、とても可愛い笑顔だわ。
「ルディからお話は聞いているわ。色々と大変だったでしょう。お部屋を用意してあるから、今日はゆっくり休んでくださいね」
「身に余る光栄です」
「そんなにかしこまらなくてもいいのよ。ねぇ、ルディ」
ルディさんのお母様はとても品があり、穏やかな雰囲気のある女性だった。それにとても美しくて、ルディさんに似ている。
「ああ、俺もそう言ったんだが、彼女の性分らしい。とりあえず、今日はゆっくりするといい」
「はい……ありがとうございます」
緊張するけれど、ルディさんの笑顔を見ると少しほっとする。
ルディさんがご家族にどのように私のことを話しているのかは明日聞くことにして、今日はお言葉に甘えさせていただくことにする。
少なくとも、嫌な顔をしている人は誰もいないことにとても安心した。
もう一度深々と礼をして、侍女の案内で私は立派すぎる客室へと通された。