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12.ヴァイゲル公爵家へ

 あの後、馬車に乗り込んだ私はルディさんとともに彼の屋敷へ向かった。


 ヴァイゲル公爵家――。


 この国でその名はとても有名で、国随一の高位貴族。


 ヴァイゲル家は代々文武ともに優れた家柄であり、ここドルトルク王国の軍部を掌握してきたと言われている。

 そのため公爵家の中でもかなり強い権力を有している。


 現ヴァイゲル公爵――つまりルディさんのお父様は宰相を務めているのだとか。


 ルディさんはそのヴァイゲル家の次男だった。


 この国ではたとえ嫡男ではなくとも、国に有益な功績を納めた者には国王から爵位を与えられることがある。


 家柄も申し分なく、騎士団長を務めるルディさんは間違いなく将来有望であるだろう。


 そんな彼が、なぜ私のような者を婚約者にしようとしたのだろうか。

 彼ならば名立たる高位の家の出のご令嬢から好きな相手を選べるだろうに。

 いくら次男でも、もっと家を強化できる相手との結婚を望まれるのではないだろうか。

 伯爵家の生まれという誇りはあるけれど、実父を亡くし財産も奪われた今の私には、ヴァイゲル家の得になるようなものは何も残っていない。


 今後どうするかはゆっくり考えてほしいと言い、行く宛てのない私にしばらく彼の屋敷に居てくれて構わないからと、ルディさんは優しく微笑んだ。


 求婚してくれたのに、どうするかは私の自由にしていいと告げるルディさん。


 本来なら、彼の求婚をお断わりするはずがなかった。

 私には(・・)、お断りする理由がない。

 貴族の結婚など自分の意思で行えるものではないと思っていたし、そもそもルディさんが相手で嫌がる女性はいないと思う。


 それに何より、私はルディさんに憧れていたのだから。

 こうして馬車の中に二人きりで居るだけでも、とても緊張してしまう。これは夢なのではないだろうかと思ってしまう。


 けれど彼の立場を考えると、素直に「はい喜んで!」と簡単に頷くわけにはいかない。

 私は彼に相応しい女性ではないのだから。


 父が生きていた頃ならいざ知らず、今の私はほとんど平民と変わらない――いや、下手をしたらそれ以下だ。


 それなのに、ルディさんのような素敵な方がどうして私なんかに求婚してくれたのだろうか。


 ルディさんは優しいから……優しすぎるから。

 困っている私を助けるために、罪滅ぼしで妻に迎えようとしてくれているのではないかと、どうしても考えてしまう。


 ルディさんにはもっと相応しい相手がいるはず。

 ご家族……ヴァイゲル公爵様だって、きっとそう思っているはずだわ。

 それなのに、私なんかが彼の屋敷に厄介になって、本当にいいのかしら。


「……」

「ユリアーネ、心配しないで。俺の家族はみんな君を歓迎しているよ」


 何故です。そんなはずありません。


 不安げな私に気づいて優しく声をかけてくれるルディさんに、その言葉は喉をつかえて出てこなかった。けれど今夜はルディさんのところでお世話になるしか、他に道がない。


 どんな場所でもフレンケル家よりはましだろうと思うけど、ヴァイゲル公爵様にあまり迷惑をかけるわけにはいかないから、やはり早く仕事を見つけて出ていかなければ。


 そう思いながら、私は王都に構えてあるヴァイゲル公爵邸へ向かった。


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