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01.絶望と期待

約2年ぶりに改稿しました。よろしくお願いいたします!

〝君との婚約を破棄したい〟


 配達員から渡されたその手紙に書かれていた言葉に、自分の目を疑った。


 どうしてこんなことになったの……。


 約束の日まであと、ひと月を切っていたというのに。

 もう少しで、私はこの家から離れることができたというのに。



 殴り書きで書かれた婚約者のサインも、その理由すらろくに書かれていない文章も、昨日までの丁寧な文とはあまりにも違い、投げやりな印象を受けた。



 昨日まではあんなに愛を語ってくれていたのに。

 この一晩で一体何があったというの?

 どうしてこんなに突然人が変わったようになってしまったの?


 どうか嘘だと言ってほしい。


 それとも、今まで私が愛してきたもののほうこそすべて、嘘だったというのだろうか――。



 震える手でその手紙を握りしめ、私は過去に彼から贈られた手紙を引っ張り出した。




 *




 ドルトルク王国――。

 ここは魔法や魔物が存在する世界。

 

 一年前ほど前。

 私、ユリアーネ・フレンケルに婚約者ができた。



「おまえの取り柄はその見た目だけなんだから、さっさともらわれていけ!」


 義父はいつもそう言って、私に舌打ちをしていた。


 フィーメル伯爵家の一人娘として生まれた私は、幼い頃に父を亡くした。

 美しかった母が、同じように妻を亡くしていた年上のフレンケル伯爵と再婚したのは、もう十年以上前のこと。


 フレンケル伯爵にも一人娘がおり、私には歳の近い義姉ができた。

 最初は家族四人での新しい生活はそれなりに楽しかった。義姉は少し物言いがきついところもあったけど、義父は私を可愛がってくれていたから。


 けれど、その関係は母が亡くなったことで一変した。


 義父は母の手前、私を可愛がるふりをしていただけだったのだ。

 母がいなくなると使用人の給金をケチるために解雇して、自分は外で派手に女遊びをするようになり、私をメイド同然に扱うようになった。


 領地は国に返納されたと聞いている。

 実の父から母に引き継がれた財産は、再婚したフレンケル伯爵に渡ってしまったようで、義姉には宝石や高価なドレスを買い与えていた。

 義姉は私が亡き父に買ってもらった数少ない高級品すらも奪ってしまった。

 元々意地悪なところがあった義姉は、枷が外れたように堂々と私に嫌がらせをし始めた。


 そして私が年頃になると、早く結婚させて家から追い出そうと、二人は毎日のように


『本当邪魔。さっさとどっかの男に嫁いでいなくなってくれればいいのに』

『ははは、金だけは毎月仕送りさせよう』

『いいわね! それでまた素敵なドレスを買ってね、お父様』

『ああ、いいぞ。もしもらい手が見つからなかったら、娼館にでも売り飛ばしてしまおうか』

『やだぁ、お父様ったら、名案ね! でも私にはちゃんといい相手を選んでよね』

『当たり前だろう、おまえは私の可愛い娘なのだからな!』


 ……と、そんな会話をするようになった。


 仕事が遅い! と暴力を振るわれることもある。


 私だってこんな家、早く出ていきたい。


 毎日そう思いながら生活していたある日、とうとう義父は私の婚約者を見つけてきた。


 グレルマン伯爵家の三男。義父の話によると、二人の兄に比べて取り柄のない末っ子らしいけど、私はこの家を出ていけるのならそれだけで幸せだと思った。


 だから婚約者が誰であろうと、お断りするつもりも権利もない。



「結婚は一年後だ。ふん、やっといなくなってくれるかと思うと清々する」


 婚約が決まった時も、義父と義姉からは当然「おめでとう」の一言もなかった。

 二人はどうやって私でお金を稼ごうか、それしか考えていないのだから。


 でも、この生活もあと一年の辛抱。

 今までも我慢してきたのだから、あと一年くらいきっと耐えてみせるわ。



 グレルマン家の三男、カール様は王宮騎士志望らしい。

 王宮騎士団に入団するためにはまず一年、見習いの候補生として兵舎に泊まり込みで訓練に励まなければならない決まりになっている。


 その後、適性試験を受けて合格した者のみが、晴れて王宮騎士団へと正式に入団できるのだ。


 だから、結婚は一年後。


 この一年間は彼に会うことはできないけれど、手紙のやり取りだけは許された。


 カール様はほぼ毎日私に手紙を書いてくれた。


 貴族同士の結婚に愛などなくて当たり前。

 けれどカール様は人情厚い方のようで、お会いしたことこそないけれど、〝いつか会えるその日を楽しみにしている〟と、熱いメッセージを手紙にしたためてくれていたのだった。


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