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いい思いをしたのは良かったが、おれの身辺は相変わらず危機的状況にあることには違いなかった。おれを殺そうとしているのは、一人や二人行動しているのではなく、何人か束になっていた。おれが自宅の部屋から外に出ると、殺し屋たちは車や携帯電話を使って、普段からのおれの行動範囲や通勤や買い物で歩いている道などを、逐一監視していた。
おれはそこで一つの作戦に出た。タバコを買いに近所のコンビニまで行くにしても、普段日頃から歩いているかもを敢えて歩かずに、それまで一度も歩いたことの無いコースを歩いて行った。こうすることで、殺し屋たちを手玉にとり、翻弄させてやった。
実際、この作戦は功を奏した。これではいつもおれが歩いている道に待ち伏せしようにも、それが出来なかった。これならおれに危害を加えようにも、そう簡単にはいかないだろうな。おれはそう思った。
そんなある日の夜、おれは風呂から上がり、残暑が厳しかったので、おれは部屋の窓を思いっきり全開した。それからテレビで映画「バットマン」を観た。そこは共同通路に面した部屋で、誰でも自由に部屋の前を行き来することが出来た。その様子を監視していた殺し屋たちは、大喜びした。
「アイツ、馬鹿だな。あんなに窓を全開にしていたら、殺して下さいって、お願いしているようなモンだぜ」
しかし、おれにはその殺し屋たちの会話も筒抜けだった。おれは映画を観終わると、共同通路に面した場所に置いてください机のイスに腰掛けた。おれは窓を開けっ放しにしながら、部屋の灯りを消して、真っ暗な部屋の中でイスに座ってそのまま居眠りをしているフリをした。おれは半分目を閉じながら、意識だけはハッキリとしていた。
殺し屋たちはおれのその様子を察知して、真夜中の午前零時キッカリになったら、おれの頭を拳銃で撃って、射殺しよう!企てた。
殺し屋はまず、午前零時5分前に一旦おれの様子をこっそりと伺いにやって来た。部屋の窓は相変わらず開けっ放しで、中ではおれがイスに腰掛けて、居眠りをしている様子が確認出来た。殺し屋は再び団地の下まで下りて、停めてあったクルマから拳銃を取り出して、午前零時になると、エレベーターで上まで上がった。
おれは午前零時の一分前になると、それまで2時間ぐらい開けっ放しだった窓を全部閉めて、中からカギをかけた。それから、ずっと灯りを消していた部屋の中の電気をつけた。その後、急いで家のトイレに駆け込んだ。トイレの扉を閉めると同時に、エレベーターで何者かが上がって来る音が聞こえた。
「ほおら、やっぱりな」おれは思った。
おれがトイレで用を足して、中から出ると外にいる殺し屋が、「こんなバカな…」と、絶句して共同通路を虚しく通り過ぎる姿が、部屋の中の曇りガラス越しに確認出来た。
おれはとりあえず、身の危険を回避したことを確認して、部屋の灯りを消した。それから布団の中に入り、そのまま翌朝まで深い眠りへと落ちた。




