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 おれはこうして郵便局にも無事に復職した訳だが、その一方で病院との関係も続いていた。月に一度、仕事かお休みの日に外来まで足を運んで、クスリを宇都美に処方してもらって、服薬していた。外来の診察室では宇都美ともお互いに笑みを浮かべて、一見すると和気あいあいとしていた、が、腹の中では宇都美はおれのことを深く恨んでいた。

 そこで、宇都美はおれが服薬しているクスリの調合を操作するようにした。おれは最初のうちはなんてこともなく、処方されたクスリを飲んでいた。しかし、クスリを飲めば飲むほど

、良くなるどころか次第に頭や体調がおかしくなるのを感じるようになってきた。そこでおれは、一応外来まで出向いて、かたちだけはクスリを貰いに行ったが、親にも主治医の宇都美にも内緒で服薬を止めてしまった。おれはこっそりと、貰ったクスリを全部ゴミ箱に捨てていた。

 宇都美はまた、おれに明確な殺意を覚えるようになった。いい加減なクスリを処方して、おれがおかしくなることを期待する一方で、殺し屋に依頼して、おれを抹殺するよう企てた。 

 そうしているうちに、おれも何者かがおれの命を狙っていることに、徐々に気づき始めた。郵便局の仕事帰りや、外を歩いている最中に、どこからともなく「アイツだ、アイツを殺せ」との声が聴こえるようになったからだ。

 それでもおれは誰にもそのことを言わずに、至って普通に生活を続けていた。毎日元気に仕事に行ったし、クスリを貰うフリをして外来にも通った。

 クスリを服薬することを止めても、おれの体調や精神的に悪くなることは特になかった。むしろ、ますますおれの頭は冴えてきた。


 ある日、仕事を終えて自宅の部屋の中でくつろいでいると、郵便局にずっと前からアルバイトに来ている女子大生のことが頭に浮かんだ。

 「そういえばあの娘最近、元気が無いなあ」と、おれは思った。それから想いを巡らせているうちに、もしかすると、あの娘のお母さんが病気かケガをして病院に入院しているのかもしれない、との考えが自然と湧いて出てきた。 

 よし、明日の朝一に郵便局であの娘に訊いてみよう。おれは決心した。 

 その翌朝、おれは郵便局に出勤すると、夕べおれが想いを馳せた女子大生が仕分け作業をしていたので、早速声をかけた。  

 「ねえ、名前はなんて言うんだっけ?」

 おれがそう言うど、その娘は怪訝な顔をして、黙っておれの顔をジッへ見つめた。

 おれはその娘に「お母さんは元気?」と尋ねるとその娘はびっくりして「エエー!」と声を出した。 

 「なんかあるかもしれないけど、すぐに良くなるから大丈夫だよ」と、おれは頭の髪の毛をかき分けて言って、そのまま仕事に入った。

 その女子大生は驚いて「スゴーイ。あの人なんで知っているの?あたしのお母さんが病気で入院患者いること、誰にも話していなかったのに…」と、一緒に仕分け作業をしていた友人に漏らした。

 その後、おれが自分の班で、郵便物の組み立てをしていると、その娘は不思議そうな顔つきしながら、おれの方を見つめていた。 

 その後、その女子大生の母親は実際に病気で入院していたが、病状は順調に回復した。病院の医者が思わず首を傾げるほど、みるみると元気になった。それからは、おれの言葉通りすぐに良くなり、病院も無事に退院することが出来た。 

 その話は、小沼サユリの耳にも入り、「大河君、スゴイねえ!」と、興奮気味に同僚に話していた。

 おれはみんなの前で、少しだけカッコいい思いが出来たので、気分が良くなった。


 

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