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 そんな中、おれは保護室の独房から観察室へと移動した。今度は6人ほどが一緒に生活をしていて、温かいベッドの上で寝起きが出来た。

 その中の一人に、小渕と言う名前の患者さんがいた。この人は自分の意思に関係なく、時折突拍子も無い行動をするコトガあった。その為、ベッドで横になっている間は常に拘束具を体に取り付けられていた。トイレに一人で行くこともままならず、紙おむつを着用させられていた。なので観察室の中で排泄をしたら、「オシッコ出たぞー」と、大きな声で看護師さんを呼んで、おむつを交換してもらっていた。 

 おれが保護室の独房にいた時から、どこからともなく時折「オシッコー」と叫ぶ声が聴こえてきたが、この人だったのか、とおれは納得した。おれはこの人には悪いが、何だか滑稽な気分に襲われた。小渕さんはおれのそんな気持ちを敏感に感じておれに言った。

 「おれがこんな姿でいることを面白おかしく見ないでくれ。これはおれに課された業なんだ。若い頃に親父とお袋を金属バットで殴り殺したんだよ」

 

 それから夜になり、小渕さんはかなり調子が悪い様子だった。拘束されているベッドの上で、体をバタバタと動かして、悲痛な声で何度もこう言っていた。

 「父ちゃん。母ちゃん。堪忍なぁ…」 

 おれはその様子を見て、あまりにも調子が悪いようだったので、思わず口から言葉が出た。

 「お父様も、お母様も、きっと許してくれますよ」 

 「ありがとう」小渕さんが言った。 

 小渕さんの調子がちょっと悪いことを察知した看護婦さんが、心配して部屋のカギを開けて中に入って来た。

 「小渕さん、大丈夫?泣いているの?」

 小渕さんは黙っていたが、少しだけ気分が落ち着いたようだった。


 この小渕さんと言う人は、将棋の腕前だけは天才的で、大部屋の中にいる患者さんでも、ちょっと腕前に自信がある人が勝負を挑んでも、この人には勝てた試しがなく、負け知らずだった。おれは将棋なんてモノは弋分からなかったが、他の患者さん曰く、裏の裏まで見通している、と舌を巻いていた。

 ここの病棟に入院中の患者さんたちは、小渕さんに限らずありとあらゆる超能力者たちの集まりだった。精神病患者とは言え、決して気違いのクルクルパーではなかった。特に大部屋の中は小さな社会が形成されていた。おれの仲間や味方、それに敵も含めて、いろんな人がいた。

 

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