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 一方ちょうどその頃、郵便局でおれが入院した後も働いていた岩手真由美は、おれのことを心配して案じていた。そこで郵便局の関口課長に、お見舞いに行きたいからと言って、おれが入院中の病院の名称と場所を教えて貰った。

 その後、すぐさま自分の父親に相談を持ちかけた。

  「お父さん、白絹記念病院って知ってる?」 

  「金田さんが入院している病院じゃないかな」と、父親は自分の知り合いの名前を出した。

 「アタシの彼氏がそこに入院しているらしいんだけど…」

 「彼氏?おまえに彼氏なんかいたのか?」

 「ウン、同じ郵便局で働きながら詩を書いている人なんだけど」

 岩手真由美の父親はそのことを聞くと、そいつは大したモンだな、と感心した。 

 「分かった。金田さんをその人と同じ病棟に移してもらえないか、病院の先生に相談してみよう。おまえは金田さんからその人の様子や話を訊いてみるといい」父親はそう言った。


 それからほどなくしてから、岩手真由美の父親の知り合いである「金田さん」と言う一人の老人が、おれと同じ病棟にやって来た。おれは最初にこの老人を見た時に、この人神さまか?と思った。が、よくよく見ると片方の薬指を詰めたあとがあり、欠損していた。 

 おれがある日のこと、錦織と一緒に大部屋のカウンターのところでつるんでいると、岩手真由美によく似た若い女性が、そのご老人と面会室で話している姿が目に入ってきた。

 「あれ?あれ岩手ちゃんじゃないか?おそらく一緒にいるあのご老人は身内出もなければなんでもない。きっとおれのことを心配して、様子を伺いに来たんだ」おれは錦織にそう言った。 

 しばらくの間、そのご老人と岩手真由美が話している様子を観察した。何を話しているかは、当然おれのところまでは聞こえなかった。それから話が終わって、彼女が帰宅しようとした時に、一人の看護婦さんが彼女にこう言った。

 「大河さん、みんなお分かりのようですよ」 

 そう言われると、岩手真由美はニコっと笑顔を見せて、そのまま帰って行った。  


 その後、いつも面会室に来ている若い女性は金田さんの娘だ、と病棟の看護婦さんや金田さん本人からもそう言われた。しかし、金田さんの娘だろうがなんだろうが、あれは間違いなく岩手真由美だった。

 それからというもの、岩手真由美は頻繁に病棟の面会室に来ては、金田さんとタバコを吸いながらリラックスした様子で、おれのことを聞き出していた。 

 おれはその金田さんにも興味を覚えて、いつの間にか親しくするようになった。金田さんは、やはり昔はヤクザ者で我が頃の苦労話をイヤと言うほど聞かされた。そうして話を聞いているうちに、金田さんはある郵政の大物と深く関わり合いがあることを匂わせた。

 「待って下さい。アッ…。それはもしかして…」

 「お察しの通り、アンタの知り合いの女性の父親と古くから親しくさせていただいた」金田さんが言った。

 つまり岩手真由美の父親は、おれの目の前にいる元ヤクザ者のご老人と深い関係だった、と言うことだ。おれは半ば驚きつつも、こんなところでも彼女と、このおれは繋がりがあるのか、と感歎した。    

 

 それから二、三週間後、おれは金田さんに声をかけらた。 

 「大河さん、ちょっと来なさい。ウチの娘がこれを持って来てくれた」そう言われてカウンターのところを見ると、花瓶に生けられたキレイな花束が飾られていた。  

 おれはそれを見て、これも岩手ちゃんがおれの為に持って来てくれたんだな。そう思った。

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