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それから一週間くらいして、一人で旅行に行くため休暇を摂っていた荒井が郵便局に戻ってきた。作業が一段落して休憩時間になると、荒井は「お土産を持ってきました」と言って「毒まんじゅう」と書いてある箱をおれたちに見せた。すなわち見た目はどれも何の変哲ないまんじゅうが10個入っていて、その中に2個だけ辛いあんこが入ったまんじゅうがある、という代物だった。おれたちは辛いやつが最後まで残ったら篠原に食わせてやろう、という話になり、手を取って順番にまんじゅうを食べることにした。おれはまんじゅうをよく吟味して食べると、幸い甘いあんこが入ったまんじゅうだった。それから他の三人も1個ずつまんじゅうを食べ始めた。
するとまんじゅうを食べた仲原が「もしかしてこれ辛いやつかもしれないけど、思ったより辛くないよ」と言った。おれはどれどれと少し割って仲原まんじゅうを食べてみた。
「でもこれ、やっぱり辛いよ」おれが言うと荒井田中も食べてみた。
「これ、ハズレですね」と、荒井が言った。荒井は最後には残りの2つあったまんじゅうのうち、1個を目でよく確認してから食べてみた。
「やった、これ甘いですよ」
おれたちはバンザイをして休憩室から飛び出して、篠原がいつもふんぞり返って座っている席の上に辛いあんこ入っているであろうまんじゅうを、さりげなく目立たないように置いた。
それから荒井が、畠中と坂下におれたちの企みを話した。
「フッ、腹黒いことを…」と、畠中は鼻で笑った。
しばらくすると、篠原が出勤して来て、机に向かって事務仕事を始めた。さりげなく置かれたまんじゅうには、まだ気づかずにいた。おれたちはニヤニヤと笑みを浮かべて、篠原の方を見ていた。すると荒井が「ダメダメ。バレちゃいますよ」と、篠原に聞こえないように、小さな声で言った。
その後、坂下がおれたち四人に、ビデオ研修があるからちょっと来てくれ、と言った。おれたちは局内のテレビとソファーが置いてあるところまで行って、坂下にビデオを観るように指示された。そのビデオの内容は普段から郵便局で働くにあたっての心構えなどについてのモノだった。
おれたちがソファーに座りながら、神妙な態度でビデオを観ていると、坂下が小松優に話しかけた。
「騙されちゃダメだ。アイツらは真面目そうにしているけど、実は悪い奴らなんだ」
小松優はキョトンとした顔をしていたが、おれたちは顔を見合わせてゲラゲラ笑った。
それから勤務時間が終わり、篠原には毒まんじゅうのことは黙って帰ることにした。
「明日が楽しみだな」と、帰り際におれは荒井に言った。
翌日、おれは郵便局に着くや否や荒井に、「篠原の奴アレ食ったかなあ」と、訊いた。
荒井浮かない顔をして「それがよく分からないんですよ。ウン、こいつは辛くて美味しいなあ、とか言って何事もなく食っちゃったんじゃないですか?」
「なあんだ、つまんねえの」おれは篠原が顔色を変えて悪態をつくことを期待していたので、多少ガッカリした。




