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 それからある日のこと、おれは岩井先生に面談を申し出た。これまで通り、おれの主治医である宇都美ではなく、岩井先生や松田先生などに、度々おれが入院中の間に感じたことや、思いついたこと等を、面談しては話し合っていた。

 おれは看護室の中にある面談室のイスに腰掛けて、話を始めた。

 「よく外国の映画とかで、例えばシティ·オブ·エンジェル、とかいう作品がありますが、あれは決して荒唐無稽な作り話ではありません。おれと同じような仲間たちが世界中にいて、そのことを描いたドキュメンタリー映画みたいなモノです。」  

 岩井先生はおれがそう言っても、バカにしたり、茶化したりせずに、一生懸命におれが言ったことをカルテに書き込んだ。   

 「他の映画では何かありますか?」岩井先生が言ったので、おれはすぐさま答えた。  

 「ベルリン天使の詩、という映画ですかね」

  

 その後、面談が終わると岩井先生はすぐに宇都美に、面談した結果を報告した。宇都美は話を一通り聴くと、誇大妄想にでも駆られたのか?、と疑心暗鬼でいっぱいになった。 

 そこで岩井先生や松田先生ではなく、第三者の別の先生とおれとで、話し合いをせさせようと考えた。


 そんなある日、注射の時間が終わったので、看護室のテーブルのところでイスに座りながらチョコレートを食べていた。すると、おれとは面識がない病院の先生がおれに声をかけてきた。

 「美味しそうに食べてますねえ」 

 「お一ついかがですか?」おれは一口サイズのチョコレートの包み紙を一つ、その先生に勧めた。 

 「今すぐに食べて下さい」おれはその先生にそう言うと、先生は言われるまま包み紙を開けて、一口食べた。

 おれは「よし、これで優位に立てた」と、内心ガッツポーズをした。

 その先生は案の定、おれに関することをいろいろと尋ねてきた。その中でおれはこんなことを言った。  

 「おれには仲間がいて、最終的にはみんな一つのある考えにたどり着くんだ」

 「イデオロギーみたいな?」先生が訊いた。

 おれはすぐさま否定した。

 「いや、イデオロギーでもないし、宗教とも関係ない」

 そこまで話すと、先生は黙って席を立って、

看護室にいた宇都美のところまで行って「話のつじつまは合ってます」と、報告した。 

 「そんなバカな…」宇都美は思わず絶句して、その場に立ち尽くした。


 また、ある時にはここに入院した当初、宇都美に注射をされた後に酷い幻覚作用に襲われたと、おれが言ったことを問題視した岩井先生が、宇都美と半ば口論になった。 

 「分かりました。そんな変なモノをボクが注射したと言うのであれば、また暴れたりするでしょう!」と、宇都美が激しく反論した。 

 それならば、と次の日には宇都美本人がおれに注射することになった。

 おれは注射をするため看護室に呼ばれた。そこで左腕の上着の裾をまくり上げて、どうぞ注射して下さい、と宇都美に言わんばかりに黙って腕を差し出した。

 宇都美はおれの腕をゆっくりとガーゼで消毒して、注射針を突き刺した。側でその様子を見ていた岩井先生は、腕を組みながら、こいつは見ものだそ、と思いながら観察していた。宇都美はなるべくゆっくりと時間をかけて注射をしながら、「頼む、騒ぐか暴れるかしてくれ」と、心の中で祈る思いだった。しかし、最後の最後までおれは暴れたり、騒いだりしなかった。

 注射剤が最後の一滴まで無くなって、全部注射し終わる頃には宇都美はガッカリして「く、クソ。やっぱりダメか」と、肩を落とした。おれは宇都美に「ありがとうございました」と、礼を言ってそのまま大部屋の方に向かった。

 その後、おれは注射が終わっても、特に体調を崩すこともなく、幻覚作用もなく、元気でピンピンしていた。ここでもまた、おれは宇都美を打ち負かして、勝利した訳だ。

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