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ある日のこと、おれは一人で大部屋と看護室を結ぶカウンターのところにいて、ウトウトと瞑想状態に入ろうとしていた。と、そこへ誰かがクシャクシャと紙袋を丸める音がして、瞑想状態を邪魔される格好になった。
そこへ相棒の錦織がおれの様子を敏感に感じ取り、声をかけてきた。
「大河さん、どうかしましたか?」
「たった今、おれが瞑想状態に入ろうとしていたのに、邪魔してきた奴がいる。あの状態で邪魔されたくなかった」
おれは一体誰が邪魔さたのか大部屋の中を見渡した。すると一人の男が目に入った。そいつはまるでブタのように太った奴だった。
「アイツだ」おれは指をさした。
それから間もなくしてから、おれと錦織は食堂のイスに座っていた。すると、さっきのブタ野郎が意地悪な笑みを浮かべて、おれのところまでやって来てこう言った。
「大河さん、さっきボクのこと指差しましたよねえ」
おれは黙って首を横に振った。
ブタ野郎は「ならいいんですけど」とだけ言った。
おれはこのブタ野郎の態度を見て、かつて学校に通っていた時のことを思い出した。このブタ野郎みたいに弱いものいじめが大好きな奴から、因縁をふっかけられたり、生意気な下級生からケンカを売られたりしたこともあった。
おれはそこで意識を集中させた。今みたいに脅されてもそれに屈することなく、たとえ腕力が無くても精神力ダケは負けるものか、とグングン天の高みまで向かおうとした。
(突き抜けろ!突き抜けろ!)
「アイツはおれに良いことを教えてくれた。ああいう奴と戦って、勝ちたかったんだ。」
それから大部屋を観察していた看護師さんたちは異変にすぐに気づいた。看護師さんたちは機転を利かせて、菅元という名前のブタ野郎をアナウンスで看護室まで呼んだ。菅元を一時的に大人しくさせるため、注射を一本打ったのだ。菅元は強力な精神安定剤を打たれて、意識が朦朧とした状態になっていた。




