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それからしばらくすると、午前9時から午後4時までの間は、独房の保護室から出されて、大部屋で過ごすことが許されるようになった。おれは今回初めて大部屋に出た。そこの談話室と食堂にそれぞれ一台ずつ、テレビが置いてあって、みんなは自由に観ていた。
おれは何気なく談話室に置いてあるテレビの画面に目をやった。そこに映し出された映像を観て、おれは我が目を疑った。そこには何か得体のしれないモノが映っていたからだ。おれは思わず気分が悪くなり、テレビの画面から目を逸らした。
それ以来、今まで普通に観ていたテレビが、実に不自然極まりないモノに見えてきた。いったいコイツらは、どういう意図で番組を制作しているんだ?と、テレビ番組自体に疑問を抱くようになった。まるで観ている人たちを洗脳するために、番組を制作しているようにしか思えなくなった。
そのうちおれは、テレビでやっていることなんか、ウソばっかりだ、とも思うようになった。それでも野球や相撲などのスポーツ中継なんかはギリギリ観ることが出来たが、バラエティ番組や下らないお笑い芸人が出ている番組は、もはや観る気が失せてしまった。
おれはこのことは、しばらくは誰にも言わずに黙っていた。しかし、そのうち病棟の先生にも話しておいた方がいい、と思って岩井先生に面談を申し出た。
おれは看護室の中にある診察室で、岩井先生と二人だけで面談をした。おれが観た得体のしれない映像のことも話すと、普段は変に茶化したことをいう岩井先生も、その時は真剣な表情をして、おれの話を聴いていた。
「おれはてっきり、変なビデオでも流して、みんなを洗脳しているのかとも思いました」おれは正直に言った。
「いや、それはない。また、変なモノが観えたら教えてください」岩井先生はそう言って、とりあえず面談は終了した。




