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 その後、おれは拘束具を外されて、再び元いた保護室へと移された。そこで出される食事は相変わらず酷いモノだった。朝食にはパンと飲み物とゆで卵等おかずが出て、夕食にはご飯味噌汁とおかずが2,3品出たが、おかずの方はよくよく見ると食欲を無くすような気味の悪いモノばかりだった。その結果、和食ならご飯と味噌汁、パン食ならパンと紅茶か牛乳ぐらいしか口に出来なかった。

 そんな食事に我慢が出来ず、せめて見た目だけでも良くしてくれと、病棟の担当医である松田という名前の先生に訴えた。

 すると、今度は夕食にご飯と味噌汁と一緒に鳥の照り焼きのようなモノが、ある日出された。おれはその照り焼きをよくよく観察して、見た目悪くないな、と思って一口食べようととした、。しかし、飲み込む前にその裏返しにしてみた。すると、その照り焼きが異様なモノに見えたので、すぐに吐き出してしまった。

 と、そこへ一人の看護婦さんがやって来た。

 「大河さん、お食事終わりましたか?」と、尋ねたので、おれはそのままトレーを突き出した。

 その看護婦さんは「ああ、良かった。食べてなかった…」と、小さな声で安堵した様子で言った。

 ここで出される卵類や肉類は要注意だな、とおれは警戒するしかなかった。


 おれはその夜中に、暗がりの中をずっと起きていた。すると今度は喉が渇いてきたので、水が飲みたくなった。水道は部屋の外にあるだけで、看護婦さんを呼ばない限り、水すら飲めなかった。

 「あ、誰か来るな」おれは動物的な本能で看護婦さんがこっちの方まで、見回りに来るの感じた。そこでおれは、食事のトレーを出し入れする、小さな四角い穴から手を伸ばして、無言でおいでおいでをした。

 見回りに来た看護婦さんはそれに気づいて、慄然とした表情で、おれがいる部屋を覗き込んだ。

 「あ、すいません。このカップに水を入れてくれませんか?」と、おれは至って普通な口調で、持参したコーヒーカップを看護婦さんに差し出した。するとその看護婦さんは「この人、大丈夫だ」と、ホッとした様子で、水が入ったカップをおれによこしてくれた。おれはお礼を言って、その夜を過ごした。


 そんな感じでいつうちに、朝から注射を打つ為に保護室から出されて、看護室まで連れて行かれるようになった。それが終わるとタバコを一本吸うことも許されるようになった。

 おれがイスに座ってタバコを吸っていると、可愛らしい容貌をした看護婦さんが、おれの側に立っていることに気づいた。

 おれはなぜかその看護婦さんに親近感を持った。そこで口を開いてこう言った。

 「看護婦さんとおれって、何か共通するモノがないですか?」

 「どういうところが?」看護婦さんが言った。

 「例えば、性格がノンビリしているとか」

 「あたし、結構キビキビしているよ」

 「フーン、そうかあ」と、おれが言った。

 (亮太クン、あたしよ)その看護婦さんは心の中でおれに言った。

 おれがタバコを吸い終わり、時間になると、その看護婦さんは保護室までおれの後ろにピッタリと寄り添うように一緒に行った。それはまるで自分の影のようにも感じた。

 おれは鍵を閉められて、部屋の中に入るとこう思った。

 「間違いない。あの看護婦さんはさとちゃんだ。こんなところにいたのか」

 おれには姉貴が二人いて、その次女の姉貴はさと美といった。その姉貴とおれとは仲が良く、幼い頃からどこへ行くにも、常に一緒だった。その姉貴はおれが高校生の頃に、ある日突然のように、自殺した、と告げられて、お葬式までした。おれも死んだものだとばかり思い、仲が良かっただけに悲しみに暮れたし、後追い自殺をしようかと思い詰めたこともあった。

 その仲良しの姉貴は死んではおらず、ずっと生きていて、ここで看護婦として働いていたのだ。



 

 

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