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家に帰ると、郵便局での様子を親父が訊いてきた。おれは手紙のことや肝心なことは一切伏せておいて、いろいろと話し合っていた。するとそこへ、インターホンが鳴る音が聞こえてきた。
「来た」おれは第2集配課長だな、と直感した。お袋がドアを開けると、そこには案の定、第2集配課長と昨日関口課長と一緒だった、総務主任の二人が立っていた。
親父は二人を家の中に招き入れて、靴を脱がせて上がらせた。台所の横にある居間に座布団を敷いて、二人を座らせて、お袋がお茶を出した。おれは心の中で「向かって右にいる第2集配課長が敵、左にいる総務主任が味方だ」おれは親父に心で念じた。
第2集配課長が座りながら口を開いた。
「実は挙動不審なところがありまして…」
親父は第2集配課長の言うことを真剣に訊いているフリをしたが、おれが今どういう状態にあるか、全て見通していた。話を聞けば聞くほど「やっぱり亮太は目覚めやがったな」と、おれに対する理解を深めた。
しばらくの間、言うだけ言わせて、話をするだけ話して「まあ、至らぬところはございますが、これからもよろしくお願いします」と、二人に頭を下げて帰らせた。
二人が帰ったあと、親父がおれに確認するように訊いてきた。
「さっきの二人はどういう人だ?」
「向かって右側にいたのが第2集配課長で、左側にいたのが総務主任だよ。第2集配課長はよく分からない人だけど、総務主任は良い人だよ」
親父はあの二人とやり取りをした感じから、思った通りだ、と確信した。
そのあと一晩明けて、おれは自宅の部屋の中で、イスに腰掛けながら様々な想いを巡らせていた。
「おれはこんな風にカッコいい男を描くつもりではなかったハズだ。もっと無様でカッコ悪い男を主人公にしようと思っていたのに…」
おれはふと親父のことが脳裏をよぎった。
「もしかすると、親父はおれのお袋よりも遥かに若くて年ごろの、それも複数の女たちと仲良くしたこともあったのかもしれない…。ウソだ、ウソだ。親父がそんなことをする姿なんて想像したくない…」
しかしそれもまた、れっきとした事実だった。
「普段からテレビや雑誌や新聞を何気なく観たり読んだりしていると、いろんな映像や情報で溢れている。戦争や飢饉で苦しんでいる人たちも、世界中で何千何万といるんだろうが、実際に足を運んでこの目で確認した訳じゃない。あれらは一体、なんなんだ?人がお互いに殺し合うようなことなんて、本当にあるのか?もしかすると、特撮映画のように実際にはないことを、観ている人たちをごまかす為に意図的に創作されたモノかもしれない…」
おれは今まで心で感じてきたこと、目で見てきたこと、耳で聴いてきたこと、その全てが疑問に思えてきた。
「世の中の人たちは、みんなどこかで騙されている。でも、その騙されていることにすら気づいていない」




