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ちょうどその頃、郵便局にいた小沼サユリは、一昨日からの出来事を目の当たりにして、おれのことを心配していた。そんな中、おれが手紙を託した女性職員から人気のない非常階段の踊り場まで呼び出された。それから今朝方起こった出来事を聞かされて、ますます気になって仕方がなくなった。女性職員は、おれの様子が普段とは全然違って、別人みたいで怖かったと、苦笑いした。
小沼サユリは手紙を受け取ると、言われた通り人目がつかない女子トイレの個室に入り、封筒から手紙を取り出して読み始めた。そこにはこんな文面が書かれていた。
「今までお前に心配させてしまって済まなかった。でも、もう大丈夫だ。
この世はおれが思っていた以上に恐ろしいところで、お前たちを守る為にもおれに面倒を診させて欲しい。
面倒を診る代わりに体をよこせ、とかそういう訳でもない。
他の男に任せると、下手すれば共倒れになる危険性もあるからだ。
これはとても大事なことなので、よく考えて貰いたい。
頼んだぞ」
小沼サユリは最後まで手紙を読むと、気が遠くなる思いに駆られた。この手紙を読んだら破棄してくれ、とは言われたモノの、とてもそんな気持ちにはなれなかった。そこで手紙を自分の懐に隠して、大事に取っておくことにした。
以前、同僚の畠中から、大ちゃんとサユリは似てねえか?と言われたことがあった。その時は、そうかなあ、と思う反面、おれに対してとても赤の他人とは思えないような、親近感を持っていたことも事実だった。
「やっぱりアタシと同じだったんだ」小沼サユリはそう確信した。それと同時に氷のように冷たい情念の炎が、胸の中でメラメラと燃え上がってくるのを感じた。




