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 駅まで到着すると、今度は普段から通勤で乗っている電車のホームとは、反対側にある路線のホームに立っていた。それは手紙を託そうと思った女性職員が、いつも通勤している駅の方に向かう電車が来るからだ。ほどなくしてから通勤快速の電車が来たのでおれはそのままその電車に乗り込んだ。目的地の駅までは結構あった。電車の中は人影もまばらで、座席に座ろうと思えば座れた。が、おれは座席が空いていても座らずに、立ったままでドアの手すりに寄りかかっていた。

 それからやっと目的地の駅まで到着した。おれは電車から降りると階段を使って再び反対側の電車のホームまで行った。ここの駅は出入り口が一箇所しかなかったので、出入り口の付近で待っていれば、間違いなく総務課の女性職員と遭遇することが出来た。幸いその駅は、下り列車の駅だったお陰で、ラッシュ時でも人影がまばらだった。おれは女性職員が通勤で駅に来ることを、祈るような気持ちで待つことにした。

  その間、もしもあの人が風邪などひいて休んだりしていたらどうしよう、とか、急に誰かのお葬式かなんかあって、来なかったらどうしよう、などという思いが頭によぎった。しかし、いまさらジタバタする訳にもいかず、しばらくの間一人で不安げに待つしかなかった。

 そうこうしていると、一人の女性が階段から上がってホームまで来た。「来た、あの人だ」おれは女性職員と目を合わせた。その人もすぐにおれに気づいた。女性職員は、この人どうしてこんな所にいるのかしら、と思ったが、何も言わずにまるで磁石に引き寄せられるように、おれの元へと近づいて来た。

 おれは手紙が入った茶封筒を取り出して、女性職員に手渡した。

 「いいですか。ここには人の命に関わる重要なことが書いてあります。これを郵便課の小沼さん、もしくは集配課の岩手さんに渡して下さい」

 その女性職員はおれからそう言われて驚いた様子だった。しかし、おれに言われるままに茶封筒を持っていたカバン中にしまった。

 そのあとすぐに電車が到着したので、一緒に中へと乗った。

 おれと女性職員は、空いていた席に並んで座ることになった。

 「さっき人の命に関わるって言いましたけど、本当にそんなことがあるんですか?」女性職員おれに尋ねた。

 「人の命に関わるとはいえ、これを読んだら人が死んでしまう、とかそんなことはないので安心して下さい。ただ、これを他の人に読まれるとマズいことなります。小沼さんか岩手さんに渡す時も、中身を開けて読む時も、絶対に他の人に見られないようにして下さい。それから読んだ後も、人には見られないように破棄して貰えれば幸いです」

 「ずいぶんと、手の込んだ話ですね」

 そのあと、しばらく二人とも黙っていたが、おれが試しに訊いてみた。

 「集配課岩手さんご存知ですか?」

 「いいえ」

 「それなら、小沼さんに渡して下さい。彼女が見れば話も早いと思いますので」

 女性職員はまだ半信半疑だった。

 「でも、こんな風に待ち伏せして来るなんて、失礼じゃないですか?」

 「謝ります」おれは落ち着いた口調で一言だけそう言った。

 そのあとは二人とも何も話すこともなく、郵便局がある最寄り駅まで電車に揺られていた。おれは自分でやっていることが怖くなり、黙ってはいたが、体がブルブルと小刻みに震えてきた。

 それから駅に到着した。おれは先に女性職員が降りるのを待って、そのあと電車から降りると、そのまま一人で駅のホームに立ち尽くした。それからハッと我に返った。

 「アア、とうとうやっちまった。もう彼女たちとの関係も終わりかもな」おれは自分でやったことが、どれだけのことか、よく分からなくなってしまった。おれは思わず悲しくなって、涙が出そうになった。

「でも、良いんだ。あの娘たちさえ、幸せになってもらえれば…。おれは精神病院に入院して二度と出れなくなるかもしれない」そう思うと、諦めにも近い感情に襲われた。

 そのあとおれは、郵便局に顔を出すこともなく再び電車に乗って、自宅へと戻って行った。

 

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