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おれはそのあと、配達準備を整えてから郵便局地下ある駐車場へと向かい、バイクに乗って配達に出た。が、外の風景は何ら変わらないハズなのに、今までおれが見てきたモノとはまるで違って見えた。その雰囲気は尋常ではなく、おれは思わず恐怖すら覚えた。これは一体どういうことだ?おれは自分に問いかけた。「世の中っていうのはこんなにも恐ろしいところだったのか」そう思って、ざわざわとその恐怖を実感してきた。
何とか配達を終えておれは郵便局まで戻った。おれが事務仕事をしていると、職員の一人が今朝方の一件で、おれを気遣うように声を掛けてきた。
「大河君。神内君とは波長が合わなかったのかな?」
おれはそんなに簡単に済まされるような出来事ではなかったので、塞ぎ込むように一言「今は何も話したくない」と、ボソッとつぶやいた。その職員もそれ以上の詮索はしてこなかった。
そのあと、佐藤のジジイともたまたま顔を見合わせたが、佐藤のジジイは「とうとう騒ぎを起こしたな。これで大河も終わりだな」と、内心考えて、上機嫌な様子だった。佐藤はバカだからおれが「騒ぎを起こした」と、その程度しか捉えていなかった。それだけで済めば、こんなにおめでたいことはなかった。
翌朝になり、通勤の途中で歩きながらおれはハッキリと自覚した。
「おれは天使だ。おれは天使だ…」
そのことが分かって、おれは嬉しさや喜びの気持ちよりも、悲しみや諦めにも似た感情が湧き出した。
「父さん、助けてくれ。おれは変な奴らに殺されてしまうかも知れない」
おれは通勤電車の座席に座りながら、いつのまにか涙目になっていた。
そのあと、おれは郵便局まで辿り着き、休憩室でタバコを吸っていた。船木などの敵たちは、怪訝な様子でおれを見ていた。おれはそこで敢えて明るい口調で味方の職員にこう言ってやった。
「昨日なんですけどなんかありましたか?何かあったような気がするんですけど」
「何にもねえよ」
「そうですか?おれちょっと頭をおかしくなっちゃった。病院にでも行って診てもらった方がいいのかなあ?」
「アアン?大丈夫かあ?」




