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その翌朝、おれはいつもの時間通りに寝床から飛び起きた。それから顔を洗い、メシを食べると出勤の身支度をして、それから出かけた。最寄り駅まで歩いて行く途中に、おれは何度も考えた。
「おれがこんなことをしたら、タダじゃ済まなくなる。宇宙が無くなっちまうぞ。こんなことやらない方がいい。と言うよりやっちゃいけない。神の領域も悪魔の領域も超えている。そうだやっちゃいけないんだ」
おれは電車に乗って、郵便局まで到着した。着替えの為に更衣室まで行くと、そこには小島が来ていて、先に着替えていた。小島とおれはいつもと同じく、他愛のない話をしたが、小島は着替え終わると、逃げるように更衣室から出て行った。
おれが着替え終わって制服姿になると、一人の職員が慌てて更衣室に入って来た。そも職員はかつて、おれたちがいないと宇宙無くなってしまうんだよ、とおれにそう言った酒井だった。「とうとう来たか!」酒井はそう思っていた。
それから酒井は西川を見つけてこう言った。
西川君キミ今のうちに転勤届けを出した方がいいよ。このままだと今に恐ろしいことになるそうなってからじゃ誰も責任が取れなくなる。ボクが一番そのことをよく知っているんだ。あまり悪いことは言いたくないけど、気をつけた方がいい!」
西川はそう言われても、何のことだか見当もつかなかった。
西川はきっと大河せいだな、と思い安藤の元へと行った。しかし、安藤がとった態度は、今までとは違ってやけに冷たい態度だった。
「いったい、どういうことですか?」西川は安藤に尋ねた。
「実を言うとね、ボクたち西川君のことがあまり好きじゃなかったんだ。ゴメンね。大河君のことは好きだったんだけどね」
西川は思わず絶句して、訳がわからない気持ちでいっぱいになった。
西川もそうだが、おれの中では一番の敵は神内だった。神内は仕事中に「やっとコイツに追いついた」」と思っていた。事実、大河よりも仕事が出来るようになった、と内心ガッツポーズをする思いですらいた。おれは神内の様子を見ながら「ハッキリ言ってやらないと、ダメなのかなあ」と、声を出しながら言った。
その直後、朝のミーティングが始まる前に、おれは神内に向かって声を荒げた。
「おい!オメー!」
神内は薄ら笑いを浮かべて「エッ?」と言った。
「エッ、じゃねえんだ。分かってんのか!分かってねえんだろ!?おれにこんなことをさせてみろ。大変だぞ!」
おれが神内にそう言うと、同じ班の職員たちが急に活気づいた。
「大河〜。どうしたんだよ〜?」職員の一人がおれの肩を軽くポンと叩いて言った。
それでもおれは相変わらず酷い興奮状態で、構わず神内に向かって怒鳴りつけた。
「言いたいことがあるのなら、おれに言ってくれ!そうでないと、困っちゃうんだよ。なっ、頼む、これっきりにしてくれ」
神内はおれの言うことがまるで理解出来ずに黙っていた。続けておれがまくし立てた。
「それから、言いたいことがないのであれば、おれにはもう二度と近寄らないでくれ!」
おれの様子を見ていた職員が神内に問い正した。
「何か大河君に悪いことでもしたの?よく考えてみて」
神内の奴はバカだから、おれが言っていることなんか、これっぽっちも分かっていなかった。ただ目を白黒させて、いったいどういうことなんだ?とでも言わんばかりに押し黙っていた。神内がいくら頭を働かせても理解不能だった。
おれは自分が考えついたことがどれだけ恐ろしいことか。おれ自身でも身震いするほどだった。
「ダメなんだ。ダメなんだよう」おれは一人で郵便物の組み立てをしている最中にも、そうつぶやいていた。




