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郵便局でそんなことをしているうちに、いつのまにかおれの頭の中に魔物が棲みつくようになった。おれがその日の仕事を終えて、夜になってから就寝しようと布団の中で目を瞑ると、カニとサソリと毒蜘蛛を足して3で割ったような化け物のイメージがクッキリと浮かび上がった。まるで映画の「エイリアン」に出てくる宇宙人のような化け物だ。おれは慌てて目を開けて、部屋の明かりをつけてタバコを吸った。それから再び消灯して、寝ることにした。今度は朝までぐっすり寝ることが出来た。
それからおれは、郵便局にいる化け物のような連中をどうにかしようと、いつも配達をしながら考えていた。神内や船木、西川といった奴らは郵便局の中でも、公然の敵だった。裏では何をやっているのか分からなかったが、表向きは仕事を一生懸命やっていた。他の郵便局員たちも、コイツらがムクムクと力をつけてくるのが分かっていて、危機感を覚えた。
「このままじゃマズイぞ」みんなそう思っていた。
おれはある日のこと配達をしている最中に、一つの恐ろしい考えを思いついた。それは敵の裏をかいて利用するということだ。しかし、そんなことをしたら、神内たちはまともな精神状態ではなくなるし、一人の人間を破滅に追いやって、やがては壊滅状態になってしまう。
おれは悩んだ末に配達が終わった後、自分の班にいる味方の職員の人に話だけしようと思った。
それからおれは職員に声をかけてこう言った。
「あの、もしもこの郵便局の中で私に言いたいことがある人がいれば何でも言ってくれるよう、言ってもらえませんか?私には一つ考えがあって、それを実行したら壊滅状態になってしまうんです。こっちとしては何が何でもそれを避けたいんです。私に味方をしてくれる人は良いんですけど、変に私に反感を持っている人がいれば、そう伝えてください」
おれの話を最後まで聞いてくれたその職員は、何もかも分かったような笑みを浮かべて「ウン、分かった」と、そう言ってくれた。おれはその人にあとのことは任せて、帰宅することにした。
おれは自宅に帰ってから、部屋に置いてあるガスストーブの燃え盛る炎を見つめながら、こう思った。
「原爆で100万人死ぬことより、もっと恐ろしい…」




