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郵便局も年末年始の季節になって、年賀状の仕分け作業に入る時期なった。ウチの班にも高校生たちのバイト仲間が入るようにもなって、にわかに忙しくなってきた。そんな中、一人の女子高生がおれの目に止まった。その娘はおれに何かやることはありませんか?」と、訊いてきたので、班長に何か仕事はないか、訊いてみた。
すると班長は面白く無さそう顔をして「あの娘、生意気だから、ここをやらせちゃおう」と、わざと物量が多い仕事を与えた
その女子高生は「班長は、何て言ってましたか?」と、おれに訊いたので「生意気だって言ってたよ」と、おれが言ってやった。
「ヤダ、ムカつくぅ」と、その娘は高校生らしい口調で苦笑いをした。
その娘は班長が言った通り、何をやるにしても一言多かった。おれが間違えたことを口にすると、指を指して笑ったり、おれがこれをこうしてくれ、と仕事を頼むと「エエーッ!どうしてそうするんですかあ?」と、いちいち食ってかかってきた。おれがその理由を根気よく教えてやると、やっとおとなしくなって仕事をしてくれた。
それから昼休みの時間なった。おれは時間を惜しんで仕分け作業を一人で黙々とやっていると、例のあの娘がバイト仲間の女子高生たちとおしゃべりをしているのが耳に入ってきた。どうやら某カルト教団のことが話題になっていて、その娘はその教団を苦々しく思っているようだった。おれはそれを聞いてピンとくるモノがあった。
午後の配達が終わり、おれは制服から着替えて私服姿で、あの娘を見つけて手招きをした。その女子高生近寄って来たので、出版したばかり詩集を取り出して渡そうとした。
「ほれ、一冊やる」と、おれが言った。
「これ何ですか?」その娘は興味深そうな顔をした。
「おれが書いたんだ。お前さんは見どころがある」
おれがそう言うと、おれが本を出版していたことに驚いて、一緒いた友達と共に騒ぎ出した。
「エエッ!?何で、何でえ!」
おれはそれ以上は何も言わず、黙ってその場から立ち去った。
その翌日、おれが郵便局に出勤してみると、昨日の娘は前よりも大人しくなっていた。その娘はイスに座りながら作業を黙々とやっていたので、膝でその娘をチョンと小突いてやった。するとその娘は「ビックリしたあ」と、軽く笑った。でも、やはり昨日までとは明らかに態度や様子が違っていた。
そのあと昼休み入ると、その娘は「あの人書いた詩、モノ凄く面白ーい」と、バイト仲間の女子高生たちに言いふらしていた。他の女子高生たちも興味深そうに読んでいた。おれはそのおかげで、局内では一躍注目を浴びる存在になってしまった。
その話は集配課の関口課長の耳にも入った。
「大河君は本を出版しているのか?」課長は目を輝かせて後藤副班長に訊いた。
「いやあ、ボクも知らなかったんですけど」と、後藤副班長も少し驚いている様子だった。
今でこそ関口課長のことを悪くは思っていなかったが、おれが出した詩集の中には、郵便局を批判した詩や、不満を漏らした詩も収録していたので、どう思われるか分からなかった。だから敢えてお偉いさん方には何にも言わなかった。
関口課長はおれの詩集を読んだのか、読まなかったのかは定かではなかった。しかし、特にお叱りを受けることもなかったので、おれも余計なことを言わず、普通に接するように努めた。
おれはその日の仕事が終わり、夕闇に包まれた駅のホームに一人で立っていた。この一年間は、決して悪いことばかりではなかったな。そう思いながら、おれはヘッドホンを被って音楽を聴いていた。おれが出版した詩集も、仲間内ではかなり評判も良かった。そのことが一番大きかったな。そう思うと、おれは気分が良かった。




