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ここの郵便局には、神内や佐藤のボケジイさんの他にも敵はいた。船木や西川、志賀といった連中だ。船木は局内の通路ですれ違っても挨拶も無しに、面白く無さそうな顔をして、おれとは目も合わすことなくそっぽを向いた。
志賀はおれが出版した詩集が大して売れもしなければ、世間のメディアの話題にものぼらないのをいいことに、ザマーミロと、言わんばかりのデカい態度だった。
それと同様に西川も、安藤や小久保や中西を相手に「いるんだよねえ。ああいうのが一人や二人」と、おれの悪口を愉快そうにケラケラ笑いながら話していた。西川とは違い、安藤や小久保たちはおれのことをバカとは思わずに、それなりに理解していたし、一定の評価をしていた。それでも何を考えているのか、一応西川に調子を合わせていた。
そんなある日、小久保が安藤に訊いてみた。
「おい、大河君っていうのは本当にアレなのか?」
「アレって?」
「アレだよ、アレ」
「ああ、アレね。じゃあさ、病院の健康診断に引っかかって、ガンかも知れないって言われたって言ってみなよ。大河君、絶対悲しそうな顔をするから」
それを聞いた小久保は、ある日おれが仕事を終えて食堂の喫煙所でソファーに座りながらタバコを吸っているところを見かけて、何気なく近寄って話しかけた。
「おお、お疲れ様。おれさあこの前、病院の検査に引っかかってガンかも知れないって言われたんだ」
その言葉を額面通りに受け止めたおれは、みんなそんな風になるまで働いているのか、と思うと悲しくなった。
「大丈夫なの?」と、おれが悲痛な表情をして言った。
そのいかにも悲しそうなおれの表情を見た小久保は「本当だ。安藤さんが言った通りだ。間違いない」と、確信した。
短時間職員のうち、神内と佐藤は敵だったが、小島と岩手真由美は、おれとはウマが合って気軽におしゃべりをする仲ではあった。しかし、それでも不可解なこともあった。小島の場合おれと打ち解けているように思えたが、昼休みになると、神内とも仲良さそうに一緒メシを食堂で食べていたからだ。おれは小島がムリをして、神内と付き合っているのかな、とも思った。しかし、根っこにあるモノはそんなに単純なことではなかった。それは安藤や小久保や中西が、西川と仲良さそうにしていたこともそうだった。
おれの目が覚めるまで、もうさほど遠くはない時期に差し掛かってきた。




