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 ここの郵便局で働くようになってから良いこともあったが、マイナスなこともあった。短時間職員で一緒に働いている、佐藤と神内は特にそうだった。佐藤は一見すると真面目に仕事をしているように見えたが、毎日のように仕事中に居眠りを繰り返していた。よくよく見ていると事務机のイスに座ったまま、手も体も動いてないのだ。当然ながら同じ班にいる他の職員たちからは顰蹙を買った。にも関わらず、佐藤は義務を果たさずに自分の権利ばかり主張していた。当の本人は真面目に仕事をしよう、なんていう心掛けは皆無だった。


 その一方で、神内は何を勘違いしたのか、おれの言動や行動をいちいちマネをするようになってきた。おれと神内とでは、似て非なるモノどころか、似ても似つかない奴だったにも関わらず、だ。神内は自分の方がおれよりも、頭が良いと思い込んでこんでいた。実際にそう思っているのは神内本人だけで、同じ班の職員は誰もそうとは思っていなかった。むしろ神内を、バカでなおかつ危ない奴だと敵対視していた。


 その一方で、神内はおれを目の敵にしていた。そのクセおれのことをバカだと思い込んでいる割には、おれを横から見ていいとこ取りしようと企んでいた。即ち、おれの言動や立ち居振る舞いをいちいちマネして、やがてはおれの体を乗っ取ろうとしたのだ。神内とおれとでは、似て非なるモノどころか、似ても似つかない野郎だったにも関わらず、だ。

 ある日のこと、おれがその日の最後の配達区域の団地で、郵便物を集合ポスト投函していると、神内どこからともなくやって来て配達するの手伝う、と言い出した。その日はその申し出を許したが、それが二度目なると、さすがに何かミス事故が遭ったら責任所在が曖昧になると思った。そこで、こっちの仕事の邪魔をしないでくれ、と一喝した。

 おれがそう言うと、神内はすごすご退散したが、おれは奴の思考回路が理解不能で、不愉快なこと極まりなかった。

 そんな神内でも、不相応に岩手真由美のことが好きで仕方がなかった。神内は自分勝手に日を追うごとに妄想を膨らませた。その挙げ句に、岩手真由美本人の前で、好きだから付き合ってくれ、と彼女に告白をした。岩手真由美はそう言われても、喜ぶどころかゾッとして、全身に悪寒を覚えた。

 「付き合う気、全然ないです」と、当然ながらそう言って断った。神内はテッキリ恥じらうような笑みを浮かべて、喜んでくれるとばかり思っていた。

 「じゃ、じゃあおれ以外に誰となら付き合えるの?」と、神内は食い下がって彼女に訊いた。

 「大河さんとなら良いです」と、岩手真由美はキッパリとそう言った。


 おれはそんなことがあったのかも知らなかったが、神内は更衣室でおれが着替えていると「どうしておれじゃダメなんだ」と、茫然自失した表情でおれを見ていた。

 その一方で今度は佐藤のボケジイさんが、岩手真由美を人気のいないところまで連れて行き「今度ワシ自宅まで来て、一緒に酒でも飲まんか?」と、誘い出そうとした。それもまた当然の如く彼女から断られたが。

 岩手真由美にとって受難続きだったが、神内にしても、佐藤のボケジイさんにしても、職場内ではドンドン浮いていく存在になっていったことには間違いなかった。

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