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彼女は芯が強く、勝ち気な面がある一方で、おれのことを陰で気にかける繊細な面があった。ここの郵便局に初めて来た当初、おれの班の職員たちはみんな強面で見た目が怖そうな人たちだった。
「大河君の班の人たち、怖そうな人ばかりだけど大河君、大丈夫かな?」と、心配していた。しかし、一緒に仕事している様子を見ていると、みんなで冗談を言いながら和気あいあいとしていたので「これなら大丈夫だ」と、一安心した。
もう一つ、気がかりになったことがあった。おれが岩手真由美と仲良くしているところを目撃して、おれに新しい彼女が出来て、自分は見捨てられるのでは?と、一瞬不安になって戸惑ってしまった。しかし、おれが書いた詩の中で、愛をテーマにしたモノは紛れもなく小沼サユリのことを書いたモノだ、と二人とも理解した。後々にはお互いのことをサユリさん、真由美ちゃん、と呼び合う仲になり、三角な関係ながらおれを巡ってトラブルになることも無く、焼きもちを妬くこともなかった。
小沼サユリ本人はまるで意識していなかったが、新しくここの郵便局で仕事仲間となった、集配課の若い男性職員たちからは好感を持たれていた。なかなか美人で可愛い女じゃないか、と。以前の郵便局で、坂下や篠原や新森主任がいた頃は、内務の郵便課と配達の連中とが衝突して、口論なることもしばしばあった。が、ここではちょっと様子が違ってがいた。
ある日のこと朝一番で書留区分け作業を、特集室でやっていた時のこと、書留の枚数が計算しても合わないトラブル見舞われた。本来であれば、遅くとも午前9時半までには全て書留用意をしなくてはいけなかった。しかし、その日は大幅に時間がずれ込んで、やっとのことで計算があって用意できたのは、午前10時を少しまわっていた頃だった。小沼サユリは、集配課の人たちから怒られる、と内心穏やかではなかった。が、集配課の若い連中はニコニコとして、誰一人として怒鳴ったり怒ったりする人はいなかった。それどころか、小沼サユリや内勤の職員たちに
気を遣って、冗談を言ったりゲラゲラ笑ったりして場を和ませた。
それからおれも書留を受け取って配達に出ようとした。特集室にいた彼女は「何て優しい人たちなんだろう」と体の力が抜けて、半ば放心状態でイスに座り込んでしまった。
それ以降、彼女の明るい性格に拍車がかかり、職場のみんなとは気持ちよく仕事が出来るようになった。




