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 そんな訳で、おれが詩集を出版したことで、岩手真由美とも急速に親しい間柄なった。その一方で、神内と佐藤は何が何だかさっぱり分からないようだった。小島は黙っていたが内心、これだよ、これ、とまるで小島自身の代弁者のように感じていた。

 逆に佐藤の方は、おれに対する接し方がおかしなモノなった。おれの前では何だか絶えずプリプリ怒っているようで、挙げ句の果てには、当時世間を騒がしていたバスジャックの犯人と同じだ、とか訳の分からないことを口走った。おれは、そんなんじゃない、と抗弁したが、「いやあ、分からんぞ。あの犯人もノートに訳分からないことを書いていたそうじゃからな」などと気が狂ったようなことを言い出した。

 神内は神内で、ある日の休憩時間に、食堂でおれと一緒にいた時に「こんなことを書いて良いのか?」と、おれに向かって説教じみたことを言った。おれは思わずイラついて「確かに郵便局のことを悪く書いている詩もあるが、いいかい、よく聞けよ。おれはただ単に身の回りに起きた出来事を記録しているに過ぎないんだ」と、声を荒げて言った。神内はなおもグチグチ言おうとしたが、何も言い返すことが出来ずに、尻尾を巻いて逃げ出した。おれは神内のあとを追いかけて、何か騒ぎを起こそうとして書いたのなら犯罪的だが、おれはそうじゃない、と追い討ちをかけた。すると神内は突然ニヤニヤして薄ら笑いを浮かべて「他の局員にも見せた?」と、勝ち誇ったように言った。腹の中では「コイツはきっとバカだな」と、おれをバカ扱いしていた。

 

 おれは自分の著作物を人に読んで貰うことによって、おれの知らないうちに敵と味方が郵便局内でハッキリと分かれていた。どちらが良いか、どちらが悪いかの問題では無いが、おれを理解してくれる人たちが悪いようには、どうしても思えなかった。

 それは組合の中でも同じで、大抵の局員はおれの過激な詩集を読んで、あんなことを書くとは思わなかった、と絶賛した。しかし、支部長の永井だけは別だった。おれが書いたモノを読みもしないうちから、おれのことをバカにしていたが、読んだら読んだで、組合の部屋に入って来るなり「大河、あれよく分からないんだよ。何であんな細かいことを…」と、吐き捨てるように言ってガミガミ怒り出した。おれは永井から、よく分からない、と言われてガッカリした。なぜなら永井は良い人できっと分かってくれる、と思い込んでいたからだ。

 「いや、分かる人には分かるし、分からない人には分からない」と、おれが言うと「ぬあに言ってる!」と、永井はますますガミガミ怒り出した。

 おれは内心「この人、何で怒っているんだろう」と、怒っている理由がよく分からなかった。

 そこでおれは聖書の中に書いてある、イエス・キリストの「豚に真珠」と言う格言を思い出した。

 結局のところ、おれが書くモノは人の心を映し出す鏡のようなモノで、価値が分かる人は有り難がるが、価値が分からない人が読んでも、永井や佐藤や神内のように、非難したり、怒り出したりするんだろう、と。

 でもおれは、読んでくれた人が賛否両論となったおかげで、ますます自信を深めた。その方が面白いモノだと言うことを知っていたからだ。人間、人から賞賛されてばかりいたらおしまいよ。

 おれはそう思った。

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