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そんな郵便局勤めをしながら、おれは処女詩集の出版へと向けて、着々と準備が進んでいた。タイトルも既に決まっていた。おれは文学よりもアメリカやイギリスのオルタナティブ・ロックやグランジ・ロックなどの音楽に強く影響を受けて、詩を書いてきた。そこで、前の郵便局にいた頃から頭の中で構想を練っていて、タイトルは「グランジ」にしようと思っていた。実際、その詩集は早ければ、数ヶ月後の夏までには全て出来上がる予定だった。おれは昼間は郵便局で働いて、空いた時間に原稿の校正をしたり、出版社の編集者と手紙や電話でやりとりをしていた。この頃はおれにとっていつになく充実した毎日を送っていた。
その詩集に収録した詩の中で、恋愛について書かれた詩は、全て小沼サユリのことを思い浮かべて書いた作品だった。その中には彼女から迷惑だ、と一喝された詩も入っていた。しかし、個人的にはその他全て、どの詩も気に入っていた。迷惑だ、と言われたとはいえ、おれとしては悪い出来では無い、と自負もしていた。そのまま掲載するかどうか、少し迷ったが、自分の力量を信じてお蔵入りすることなく、掲載することに決めた。
おれが自分の作品を世に送り出すという、長年の間、培ってきた夢の実現まであともう少しだった。




