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 そんな中、おれは短編小説を一編、書き上げた。その作品はおれがそれまで書いてきた中でも、初めてその出来映えに満足出来るモノだった。おれはことあるごとに、その短編小説を人に読んで貰った。他人におれがどんな人間かを理解して貰うには、口で百の言葉を使うよりも、おれが書いた作品を読んで貰った方がよかったからだ。実際、おれの作品を読んでくれた人は、ほとんどがおれのことを好きなってくれた。

 一方で、おれの処女詩集は出版に向けて着実に進んでいた。おれは郵便局で世話になっている人たちにも、出来上がったら読んで欲しい、と呼びかけた。おれがそう言うとみんなは関心を持ってくれたが、一人だけ冷淡なおもむきの奴がいた。組合の支部長である永井だ。コイツはおれに話を感心して聴いているような顔をしていたが、裏ではこんなことを言っていた。

 「そう言えば、大川の奴は詩を書いているって言っていたな。バカじゃねえのって。今どき詩を読む奴なんていねえよ。どうせアイツのことだから下らねえラブソングの歌詞みてえな詩を書いているんじゃねえの」と、おれのことを完全にバカにしきっていた。おれはそんなこととは全く気づかずにいた。みんな理解のある良い人たちだ、と思い込んでいた。

 永井はともかくとして、その他の職員の連中は、見た目が怖かったが、ほとんどはおれを敵にまわしたり、バカ扱いする人なんかいなかった。今まで勤めた郵便局中でも、人間関係で言えばここが一番良いんじゃないか、と思うほどだった。


 短時間職員では、よく仕事帰りに一緒に食事をしに行ったりもした。ある日のこと、おれはたまには岩手真由美を誘って、小島と神内含めて四人で食事でもどうか、と言った。岩手真由美は嬉しそうな顔をして、二つ返事で首を縦に振った。そのあと、仕事が終わると四人で郵便局の近所にあるカフェへと行き、そこで食事をすることなった。

 岩手真由美一緒に話をしていると、不思議とおれとウマが合った。彼女は私立高校に通っていたが、周りの同級生たちはみんな勉強出来たが、彼女は勉強が苦手で、友達ともうまく付き合えずに中退した、と言った。おれの場合はその逆に高校生の時は同級生がバカばかりで、頭にきていた。言っちゃ悪いが岩手真由美もこのおれも学校では友達も少なく浮いた存在で、お互いに似通った面があったのかもしれない。

 おれは岩手真由美と楽しくおしゃべりした後に食事を済ませた。それから岩手真由美とは別れて、神内と小島と三人で帰ることにした。その帰り道に神内は小島に向かってこう言った。

 「あんなに岩手ちゃんと仲が良く見えて羨ましい」

 おれはそう言われても、敢えて何も言わずに黙って歩いていた。


 

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