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 ちょうどその頃、おれは自宅で書き溜めた詩が相当数あったので、それをまとめて一冊の詩集として自費出版しようかと考えていた。そのことは前の郵便局にいた時から頭の中で構想を練っていた。

 まず最初に原稿を送った出版社は、返事は郵送されてきたが特に感想も無く、ただ単に本にすると300ページになり、費用は300万円ぐらいになるとだけ記されていた。おれはその返事として「300万円どころか、300円も出せないので、出版しないで結構です」と手紙を書いて郵送してやった。その数日後、おれの自宅に出版社から電話がかかってきて「こちらでは出版致しかねます」とのことだった。

 次に選んだのは新聞広告がデカデカと載っていた出版社で、同じ内容の原稿を送ってみた。すると今度はそこの出版社の女性編集長感想と共に、私家版としてなら出版しても良い、との内容の手紙が郵送されてきた。おれは早速その出版社の女性編集長に電話をかけた。そこで私家版にする理由を訊いてみると「この詩集にはある種の思想が全体的に感じられるが、その思想に必ずしも賛同出来ない」との返事だった。おれはまあ、それも一理あるかなと思い考えた末、私家版でも出してくれるのなら出版しても欲しい、と言う内容の手紙を郵送した。

 それから数日後、今度は別の出版社の女性編集者から手紙が届いた。そこには「詩集の中にある某カルト教団やその幹部を批判した内容の詩がいくつかあるのが引っかかったのですが、私としてはこの詩集の激しさや繊細さが好きで、私家版ではなく是非とも流通を前提とした共同出版にしたいのですが」との内容が記されていた。

 そこでおれは問題となった部分を手直しして、再び原稿を出版社に郵送した。

 すると今度は「これでしたら共同出版にしても大丈夫でしょう。お手数をおかけして申し訳ありませんでした」との返事が返ってきた。それと同時に「作品数が多くてこれを全部出版すると手間も費用もかかりすぎるので、分量を調整してみてはいかがでしょう?」という内容の文章が書いてあった。

 そこでおれは全体約半分ほど、自分で選んで再び原稿を送ることにした。

 それから初めて、おれにとって処女詩集となる本の出版に向けてゴーサインが出た。しかし、親父は何故か出版することに猛反対だった。親父が言うには、女性を使ってソフトなイメージを抱かせて、本当はカネを巻き上げることが目的なんだ、という見解でいた。お袋も親父と同じ立場で、お前の妄想だ、と言い放った。

 おれはそんな二人の言うことには目もくれず、反対を押し切っても出版するつもりでいた。おれなら出来る、という根拠のない自信が、おれにはあったからだ。

 出版にかかる費用は確かに安いとは言い難かったが、郵便局で働いてコツコツ貯めた貯蓄があったので、それを元手にして全部叩いてでも出版したい、という気持ちがあった。

 おれはどうしても、アメリカ人の作家であるブコウスキーのような作家になりたかった。おれ自身、日本のブコウスキーと呼ばれるような存在にもなりたかった。それから学生時代から現在に至るまで、おれを愚弄したり、裏切ったり、バカ扱いしたり、嘲笑していた連中を見返してやりたい、という強い衝動にも駆られた。

 思えば、全てはここから始まった。

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