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その翌日、おれが仕分け台の所で作業をしていると、例の篠原とか言う奴が鳩時計のように入って来て、おれにガミガミ言い出した。
「おい!不在通知のハガキが全部書き終わってなかったぞ!全部書き終えてから帰れ!」
おれは既に開き直っていたので、黙って作業をしながら、篠原に言うだけ言わせておいた。
その後で仲原にもう一度確認した。仲原は用事があるからと言えば帰っていい、ときのうと同じセリフを繰り返しただけだった。
そこで休憩時間が終わってから、篠原に思い切って訊いてみた。
ハガキは全部書き終えなくちゃいけないんですか?おれちょっと用事があるんですけど」と、特に用事もなかったが白々しく言った。
、「それじゃ出来るところまでやっていけ」と、篠原が答えた。
おれはそれならば、と出来るところまでやって、11時近くになったら切り上げて帰ろうと思った。
おれが仕事をしていると、近くに仲原がたまたま居合わせたので、おれが言ってやった。
「ハガキは全部終わってないけど、おれ帰るから。篠原には黙っておいてね」
仲原はその言葉を聞くと篠原のところまですっ飛んでいき、告げ口しに行きやがった。篠原は顔色を変えて、まだ全部終わってないのか、とおれのところまで詰め寄って来た。
「全部やりましたよ」と、おれが涼しい顔をして嘘をつくと仲原は、エエ?、と意外そうな顔をしたが、篠原はおれが言ったことを鵜呑みにした。
「おお、全部終わったのか。それなら帰っていいぞ」篠原が言うと、おれはお疲れ様でした、と一言いってから帰宅した。
それからというもの、ハガキが全部書き終わらなくても、時間が来たらさっさと帰ることにした。
おれが準備を終えて帰ろうとすると、その度に篠原と鉢合わせになって、篠原は指を差しながらおれに言った。
「大河!昨日のハガキが全部書き終えてなかったぞ!」
「ああ、そうですか。どうもスイマセン」と、おれはそれだけ言って帰宅した。そんなやりとりが毎日にように続いた。おれは腹の中じゃ、どうでもいい、と思っていた。