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 この季節はちょうど新年会のシーズンだった。短時間職員の仕事仲間の間でも新年会をやろうという話しになった。おれはその当日、神内に指定された居酒屋まで行ったが、他の四人はまだ誰も来ておらず、仕方ないので居酒屋の入口のところでイスに座って待つことにした。しばらくすると、神内と岩手真由美が二人揃って居酒屋に到着した。その後すぐに小島も顔を出したが、佐藤は来るかどうか分からないということだった。おれたちはとりあえず四人で店内の座敷に座り、ビールや酎ハイを注文した。

 それからしばらくの間は、みんな特にしゃべることもなく黙々と飲んでいた。と、そこへ佐藤が突然のようにやって来た。おれたちは歓声を挙げて佐藤を座敷に呼び寄せた。

 しばらくみんなで談笑していると、岩手ちゃんが自分の仲間たちについて話した。

 「アタシには10人ぐらい仲間がいて、よく一緒に飲みに行ったり、どこかへ遊びに行ったりしているんですよ」

 「それは素晴らしいなあ。やっぱり友人や仲間は多い方がいい」佐藤が感心して言った。

 おれには仲間だのダチ公なんてモノは、はなから存在していなかった。むしろ一人でいた方が気楽でいい。そう思っていた。だから仲間や友達が仮に100人、もしくは1000人いたとしても、佐藤のようにそれが素晴らしいことだとは思わなかった。

 そのあと岩手真由美が以前、高校を中退したことがあって、それから仲間が増えた、と話したことを思い出した。

 「そう言えば、岩手ちゃんは高校を中退したんだよね。こんなことを言うのはアレだけど、大学なんかに行かなくて済むのなら、行かない方が良いよ」と、おれが言った。

 それを聞いた佐藤は「そんなことはないだろう」と、不満気に言った。

 「そうですよ。アタシなんか中卒なんですから」

 「いや、行かない方がいい」おれは頑として譲らなかった。

 そう言っても佐藤はまだ納得いかない様子だった。

 おれは話題を変えようと、こんなことを言った。

 「これからの時代は個人の時代になると思う」そう言うと、佐藤はまたしても半分ボケたように「いや、そう言う考えはやめた方がいい」と、言った。おれは別に何にも分からずに、自分勝手な意見を言った訳ではなく、客観的な意見を言っただけだったが、このボケジジイには全く腑に落ちない様子だった。

 「でもさあ、さっきから話を聴いていると、岩手さんが一番しっかりしているよ。しっかりしている!」佐藤が喚き散らした。おれは「ははあ、このボケジジイ、また始まりやがったぞ」と、心の中で悪態をついた。

 「そうだね、しっかりしているね」と、おれがわざと同調した素振りわざと見せると、岩手真由美は佐藤に褒められた時よりも、もっと嬉しそうな顔をした。

 新年会がお開きとなり、帰り際になってから佐藤はおれに向かって言った。「しっかりしなさいよ。ワシの言うことなんか全然聴いてないじゃないか」

 おれは思わず苦笑いだけした。腹の中では、間違ったことを言われてアアそうですか、と言うほどこっちはお人好しではない、と思っていたが。

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