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 おれは晴れて今の郵便局を辞めて本局の勤務が決まった。健康診断もパスしていよいよ本局の責任者と面接することとなった。おれは面接の当日、郵便局の最寄り駅に着いたが、相変わらず方向音痴で、早めに家を出たのは良かったが、駅から歩いているうちに道に迷ってしまった。おれは歩いていると交番を見つけてそこにいたお巡りさんに郵便局はどこにあるか訊いてみた。それからさらに20分前後も歩いて、やっと本局の郵便局まで辿り着いた。

 面接の時にそこの職員から「迷わず来れましたか?」と、訊かれたのでおれは「散々迷いました」と、正直に答えた。

 それからいろいろと、この郵便局での業務内容や注意事項の説明を受けた。最初の1週間は研修があるので、スーツを用意してくるように言われた。おれはそのあと、自宅に帰ってからお袋にそのことを言って、一緒にデパートまで行き、スーツを新調することにした。

  


 本局での勤務初日、おれはスーツ姿そこに勤務している職員たちの前で紹介された。おれは、一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします、と威勢良く挨拶をした。

 そのあとすぐに、面接で説明をされたように、研修に入った。おれはアルバイトで郵便局の経験が長かったので、一緒に話しをしていた職員のもやり易いという感じで、順調にこなしていった。


 そこでは若い局員の勧めで労働組合にも加入することになった。当時、おれはまだ20代で若いのはおれだけではなく、ここの郵便局で配達をしている連中は、若くて血気盛んなのが多かった。そこの郵便局には組合事務所が一角にあり、休憩時間なると若い連中がたむろしてみんなで雑談をしたり、タバコを吸ったりしていた。おれはそこにいる職員たちともすぐに打ち解けることが出来た。

 また、永井と言う名前の組合支部長もいたが、前の郵便局でお世話なった山下とも顔見知りだと言っていた。永井はボランティア活動をしているから、良かったら声をかけてくれ、とおれに挨拶代りに言ったが、おれはそんなモンに全く興味がなかったので、生返事だけしておいた。

 そのあとに、おれと同じ班で働いている京間と言う名前の若い局員に、おれはこれからどこを配達するのか、何気なく訊いてみた。すると、おれが密かに期待していた通り、翌年の秋に移転が決まっている、新たな本局の周辺を配って貰う、との返事が返ってきた。

 「じゃあ、来年には新しい郵便局に転勤になるんですね」と、おれが尋ねた。

 「ウチの班にいる人、全員ね」京間が言った。

 これでまた新しい郵便局で小沼サユリと一緒になるぞ。おれは内心期待に胸を膨らませた。


 おれたち短時間職員は朝8時半からお昼過ぎまでの勤務で、おれ以外では他に4人ばかりの同僚がいた。それぞれ神内、小島、佐藤、岩手真由美と言う名前だ。神内は肌が浅黒く、目がギョロッとして、髪の毛いつもボサボサで、風変わりな容姿をしていた。小島はまだ郵便局で経験も浅い、若い男だった。佐藤は見た目からしてもう既にいい歳したジイさんで、紅一点の岩手真由美は年齢が二十歳を迎えたばかりの若い女だった。話しによると、彼女の父親が郵政のお偉いさんで、コネで郵便局に入った、ということだった。

 おれはこの四人の中でも、岩手真由美という女性にどういう訳か、すぐさま興味を覚えるようになった。


 


 

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