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おれは今の郵便局の劣悪な処遇に嫌気が差していたし、短時間職員の面接時には彼女のいる郵便局勤務を希望していた。それだけに面接で落ちことに相当な精神的なダメージを受けた。おれはそれでも彼女のことが忘れられず、彼女のいる郵便局に自作の詩を添えて、小沼さんの為なら何でもする、と記述した手紙を送った。返事は当然何も来なかった。季節はちょうど年賀状が販売される時期だった。
おれは、もしかしたら彼女がいる郵便局の駅前で出張販売に立っているかもしれない。そう思った。そこである日おれは、原付に乗ってその駅前まで行ってみた。それから遠巻きに観察してみたら、やっぱり彼女が出張販売に立っている姿を目撃した。おれは早速彼女の元へと行ってみた。彼女に声をかけると、なぜか警戒した様子だった。
「やっぱり、大河君が来ちゃった。芝居を打っておかないと」彼女はそう思った。顔をこわばらせて、強いて笑顔を見せないよう、彼女は気をつけた。おれは年賀状を数枚その場で買ったが、彼女は相変わらず顔をこわばらせて何も言わなかった。
「小沼さん、手紙なんか送ってゴメンね」おれは言った。
「アタシ、すごい迷惑している」彼女は無情にもそう言い放った。
おれは小沼さんのことが好きなんだ、そう言おうとしたが、彼女はキツい口調で一言「迷惑!」と、ピシャリと言った。おれはそれ以上何も言えず、悲しい気持ちになってその場をあとにした。
おれはそのあと、自宅の部屋に一人でこもって考えた。
「ハア。もう一度前の郵便局でアルバイトでも良いから、雇ってくれないかなあ。そうすれば、昔の仲間たちや彼女と一緒に働けるのにな」
それにおれが書いた詩にしても陳腐なラブソングのようなモノではなく、出来栄えは自分でも満足いくモノだった。それだけに彼女の冷たい態度にはガッカリだった。
その後、一週間ほど経過した後に前の郵便局の山下の元まで赴いてもう一度ここで働かせてはもらえないかと、相談しに行った。
「今は人が余ってるからダメ」山下は冷たくそう言った。
「あっ、ダメですか」おれが言うと、「職員までへずられるそうだよ」と、山下が苦笑いした。
おれはそれを聞いて、すごすごと退散した。
ああ、もう彼女との関係もお終いかな、おれはそう思った。
それから3日もしないうちに、おれの自宅に一本の電話がかかってきた。お袋が最初に電話をとり、おれに郵便局の人事課から電話だよ、とおれに告げた。
「もしもし」おれは電話を取った。
「大河亮太さんですね。大河さんは失礼ですが、今現在どちらにお勤めでしょうか?」
「郵便局で配達アルバイトをしていますが」
「実はですね。郵便局短時間職員で欠員が出たので、大河さんにやってはいただけないでしょうか?」
おれはそれを聞いて即、返事をした。
「良いです。やります」
「それでですね、ご希望の郵便局ではなく本局でのお仕事になるのですが、よろしいですか?」
「ハイ、結構です」
おれは今現在建設中で、名称が彼女や山下たちと同じ名前になる郵便局の存在を以前から知っていた。そこは数ヶ月後にオープンする予定だった。その郵便局は今までおれが勤めた郵便局に一部と、彼女がいる郵便局の全てが合併することになっていたのだ。だから、たとえ今度勤める場所が違っても、再び彼女や他仲間たちと一緒に仕事が出来る可能性が9割方あったのだ。
おれ電話を切って親父とお袋たった今電話の内容を伝えると、二人とも大喜びした。
「良かったなあ。これでお前も一人前に仕事ができる」と、親父も喜んで言った。
おれも嬉しかった。




