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おれはこんな郵便局に長居をするのはゴメンだ、と思うようになった。そこで短時間職員でも良いから、試験を受けることにした。実際に試験を受けてみると、どれも簡単で、中学生レベルの試験問題だった。その上幸いなことに試験会場に行くとよその地域の試験では受験生でごった返していたが、おれの地域の会場では人もまばらだった。おれが一次試験の段階で、手応えを感じた。
それから2週間後、一次試験の結果が郵送されてきた。予想通り合格だった。そのあとに、二次試験の面接を受けに、指定された場所に赴いた。面接では割と試験官とは終始和気あいあいとした雰囲気だったので、今度も大丈夫だろう、とタカをくくった。しかし、その後郵送されてきた結果は不合格だった。おれはお陰ですっかり意気消沈してしまった。
それからおれはとうとうキレてしまった。郵便局上席課長代理に、ここの郵便局を辞めたいと申し出た。
「そうか、君も一度他の会社でも経験した方がいいかもな」と言って、特に引き留める様子もなかった。
おれは自宅に戻り、夜になってからお袋の前で郵便局を辞めると、言い放った。
「辞めてどうするの?」お袋は呆れて言った。それから寝床で横になっていた親父が、起き上がってきた。親父は機関銃のような剣幕でおれにまくし立てた。
「お前、辞めて何をするんだ?どうするんだよ?ええ?言ってみろ」
おれは何も言い返すことが出来ずモジモジしていると、親父は声を荒げて怒鳴った。
「言ってみろ!」
親父はおれを指差してこう言った。
「コイツ、もうダメだよ。路頭に迷ってノタレ死にする」
そう言うと、親父は再び床に就いて寝てしまった。
しかし、おれも冷静に考えてみると親父の言うことはもっともだった。翌日になってから、郵便局の上席課長代理に頭を下げて、しばらくの間ここにいさせてください、と頼み込んだ。上席課長代理もそれを了承してくれた。
その日に郵便局から帰宅すると親父にも、もう少し郵便局で働いてみる、と伝えると親父は軽く反応した。
「お前、また来年に試験を受ければ良いじゃないか。よそに行ったらもっと大変だぞ」親父はおれのことを心配しているようだった。
「そうだよな…」親父の言う通りだ。他に行きどころ無いし、そうするしかないんだな。おれはムリして自分を納得させるしか方法がなかった。




