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おれはその日、午後の配達を全部終わらせて局内いた。本来であれば事務仕事がまだ残っていて、そいつをやらなくてはいけなかった。しかし、若ハゲの職員が普段から口やかましくおれにグチグチ言ってくるモンだから、おれも遂にキレてしまった。
まだ退出時刻まで一時間ほどあったが、おれは誰もいない食堂で、ヘッドホンをかぶって音楽を聴きながら、タバコを吸っていた。そうやって小一時間ぐらい時間を潰して、退出時刻が近くなると上に上がった。おれは何食わぬ顔をして班の人たちに、お疲れ様でした、と声をかけてからタイムカードを押して、そのまま帰宅した。
その次の日も同じく、配達を終わらせると食堂まで行って、昨日と同じように音楽を聴きながら、タバコを吸っていた。と、そこへ同じ班にいる若いバイトの男がおれの元へとやって来た。その男はおれに向かって怒鳴り声を挙げた。
「お前、何こんなところいるんだよ!ちゃんと仕事をしろよ。何の為にカネを貰っているんだ!アア!?」
「グダグダうるさいね。分かったよ。仕事をすりゃあ良いんでしょ。ハイハイ」
おれそう言って上に上がったが、時計を見るともう既に退出時刻を少し過ぎていた。そこでおれはタイムカードを押して、何も言わずにそのままヅラかった。
その翌日、朝の朝礼が終わると、あの若いバイトの男がおれに噛みついてきた。
「お前、昨日何バックレているんだよ」
「時間になったから帰ったんだよ」と、おれ。
「班長!コイツ仕事もしないで食堂でタバコを吸っているんですよ!」若いバカ者が言った。
「大河君、配達が終わったら事務仕事をしてくれよ」と、班長が言った。
「ほらな、やれって言っているだろ」若いバイトのバカ者がおれを睨みながら凄んできた。おれはニヤニヤして薄ら笑いを浮かべて、黙っていた。
ウチの班長は若ハゲやバカ者とは違い、比較的物分かりの良い人だった。後になってから、その班長がおれに謝ってきた。
「ありゃ、異常だ。大河君のところ仕事量も多いし、仕事も早く終わる方なのにな。ゴメンな、不愉快な思いをさせて」
おれは「いやいや、班長が悪い訳ではないので」と、軽く受け流した。
その日は午後になって、配達を終わらせると、班長の顔に泥を塗ってはいけないと思い、おとなしく事務作業をすることにした。それでもあの若いバカ者がおれにガンを飛ばしてきたので、おれは側にいた職員にこう告げた。
「アイツおかしいですよ。おれのことは放っておいて自分のことだけを一生懸命するように言ってくれませんか?おれのことはもう構わないでいいので」
おれがそう言うと、その職員は「アア」と納得したように声を挙げた。
その日を境に若いバカ者はおれに何も言わなくなったし、ガンも飛ばさなくなった。おれも表面上はおとなしく、真面目に事務仕事をするようにもなった。要するにおれの勝ちだった。




