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それから数週間後、いよいよおれはここの郵便局から一旦おさらばする日がきた。おれは昼休みの時間、一緒に弁当を食べていた、安藤、小久保それに小西に、今日で最後だ、と告げた。その声が聞こえたのか、食堂の奥の方で昼飯を食べていた同じ班の土方風の職員が、少し寂しそう表情をしているのが目に止まった。
安藤が「ホント?これからどうするの?」と、訊いてきた。
「別の郵便局を紹介してもらって、そこに勤めることが決まっています」おれが言った。
「そうか、寂しくなるな」
「でもまた試験を受けて、今度受かったらここの郵便局に勤務するように希望を出しておきます」
「そうか、頑張ってね」安藤が言った。小久保も小西も、それを聞いて少しだけ安堵した様子だった。
おれの班からリストラされるのは、どうやらおれ一人だけで、臼井、志賀、菊田、それに赤口さんは残留することが決まった。おれは班長から送別会を兼ねて飲み会を居酒屋でやるから来てくれ、とのお誘いを受けた。特に断る理由もなかったので、おれは参加することにした。
飲み会当日、班長からみんなに一言、と言われたので、とりあえず今まで皆さんにはお世話になりました。これから行くところもう決まっていますが、試験を今年中に受けて、それから再びこちらの郵便局に勤務出来るよう希望を出しておきます、と挨拶した。
そのあとみんなで飲みながら、おれたちはどうでもいいような話題で盛り上がった。
飲み会が終わると今度はカラオケにみんなで行くことになった。おれはマイクを握りしめて、最初にオアシスの「ロール・ウィズ・イット」を歌った。班長はおれの歌声を聴きながら良い声してるなぁ、と感心した。その次にエクストリームというアメリカのメタルバンドの「モア・ザン・ワーズ」という曲を歌ったが、この曲は冗長なバラードで、しかも全部英語だった為、みんなは訳分からんという顔をして、不評だった。それならば、とおれが最後に選んだのが、ブルース・スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・USA」だった。おれは完璧な発音と歌唱力で、この激しいロックンロール・ナンバーを歌うと、今度はみんなノリノリだった。班長と船木はおれの歌声に合わせて首を縦に振って聴いていた。おれが歌い終わる頃にはお開き時間になり、みんな解散となった。山下は帰り際に、またこっちの郵便局に来てくれ、とおれに要望した。
それから菊田とおれは船木が運転する車で家の近くまで送ってもらうことになった。時刻はもう深夜0時を回るところだった。
その車の中で、おれは小沼サユリのことを考えていた。おれよりも、船木の方が稼ぎも身分も上だし、彼女が幸せなるというならば、船木に彼女を譲っても構わない。おれはそう思っていた。
しかし、彼女の意思も、おれに対する想いも堅固なモノで、そう一筋縄にはいかなかった。




