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その日は朝から雪が降っていた。それも小雪が舞う程度ではなく、歩いていると足の先がすっぽりと入るほどの大雪だった。おれたち集配課の連中にとってはイヤな日でもあった。たとえ大雨が降ろうが、台風が来ようが、あるいは大雪が降ろうが関係なく、配達の仕事は休む訳にはいかなかった。特にこの季節は通常の郵便物に混ざって、年賀状の返信のハガキが大量に出回る時期だった。もし、1日でも休もうモノなら次の日は丸一日かかっても、配達しきれないぐらいの量が溜まってしまうからだ。それぐらい郵便物というのは毎日毎日、ウンザリするほど出ていた。
おれたち今日みたいな大雪の日にはバイクにチェーンを取り付けて、それから配達に向かった。雨降りの日もそうだが、雪が降っていては配達も思うようなスピードで出来なかった。こんなにも配達はかどらない日はなかった。しかも、外は凍え死にそうなぐらい寒かった。
こういう日に限って、郵便物は半端な量ではないぐらい多かった。午後の組立ての作業だけでも、かなり時間がかかってしまった。と、そこへウチの班にいる土方風の職員が満面の笑みでおれに言った。
「いいよ、半分残して明日に回しちゃえよ」
おれは半ば冗談のつもりで口にしたその言葉を本気にしてしまった。おれは喜んで、組立てを手伝っていた橋本課長代理に、半分だけで良いそうです、と言った。橋本課長代理も「なあんだ。それで良いのか」と、言ったのでおれは半分ぐらいの郵便物をそのままにして配達に出た。
それからだ。おれが大雪の中を必死になって配達して、局に戻った。時間も午後の5時半を回っていた。すると関口課長はおれに向かって「半分残して良いだなんて、おれは言ってないぞ」と、苦言を呈した。よくよく考えてみればそうだった。おれは土方の方を見ると、ソワソワと落ち着かない様子だった。冗談のつもりで言ったことをおれが本気に捉えてしまって、悪いことをしたと、半ば後悔していた。しかし、その日の郵便物は、全部残さず配達をしたら夜の7時ぐらいまでかかりそうなぐらいの量だった。しかも仕事は今日だけではない。また明日、朝早くから出勤して、働かなくてはいけない。そのことを考えると、おれの寿命が短くなりそうなほど、この日の仕事はキツかった。




