36
郵便局ではそんな感じで、あまりうまくいっているとは言えない状態だった。おれは一抹の寂しさを覚えた。それでも休みの日になると、おれは相変わらず一人で電車に乗って、渋谷のタワーレコードまで行き、そこで音楽のCDや、洋書を買い求めた。誰かおれと同じ趣味を持った仲間があと一人でもいれば、また楽しく感じただろうが。おれは彼女を誘うことを何度も何度も考えた、しかしその彼女も今では相手にしてくれなかった。
いっそのこと彼女のことはキッパリと諦めようか、と一度や二度ではなく、それ何度か考えた。しかし、不思議なことに、もうダメだ、とおれが諦めようとすると、ダメじゃないよ!と、彼女の声が聞こえた。すると、おれの気持ちは強い力で彼女の方へと、引き戻された。おれはいったいどうなっているのか、サッパリ分からなかった。
タワーレコードでCDを何枚か買い求めたあと、その足で代々木公園まで行き、おれはベンチに腰かけた。そこでリュックの中から買ったばかりのCD封を開けて、持参したポータブルCDプレーヤーにCDをセットした。おれは一人でヘッドホンで音楽を聴きながら、冷たい風が吹きつける中、身を切られるような孤独感を体全体で感じた。こんなに寂しい気持ちになるのも久しぶりだった。
それでも音楽だけはおれを裏切らなかった。プロのミュージシャンになる夢はとっくに諦めていたが、自分の部屋で一人でギターを弾いたり、歌を歌う習慣だけは改まらなかった。歌を歌えば歌うほど、ギターを弾けば弾くほど、その分だけそれなりに腕前が上達した。音楽はその点、人間と違って誠実だった。
音楽を一緒に演奏したかつて仲間たちには裏切られたが、音楽そのものは、おれを裏切らなかった。音楽だけがおれの親友だな。おれはそう思った。




