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新しい課長である関口課長は、前の課長よりも一生懸命頑張ってやっていたし、悪い人ではなかったのかもしれないが、若いだけあって現場のことがまだ把握し切れていなかった。そのため、最初は局内で働いている人たちは関口課長が原因で、混乱した。当然ウチの班にいる職員たちからも反発の声が上がり、酒井も「あんな奴に郵便局のことがわかってたまるか」と、吐き捨てるように言った。
そうとは言え、おれも人のことを言えなかった。関口課長が赴任した後に仕事上のミスを連発して、それが原因で大きな申告となってしまった。関口課長は最初はおれを擁護してくれたが、ミスが多くなるにつれ、次第に怒りを露わにして、おれを叱責するようになった。副班長の山下からもミーティングの時にみんなの前で「ミスばかり連発しやがって。辞めてもらっても結構だ!」と、キツイお叱りを受けた。
おれは辞めてもよかったが、それでも自発的に自分の方から投げ出して、辞める気持ちにはなれなかった。他に行きどころがなかったからだ。それに中途半端な状態で辞めるのもいかがなものかと、そんな気持ちもあった。とりあえず、精一杯やってみて、それでもダメなら辞めちまおう、とも思っていたが。
そんな中、小沼サユリもおれと仲良くし出した当初は、おれのためなら死んでもいい、ぐらいの想いがあったが、その想いが徐々に重荷になってきた。もうコイツでも良いやと言わんばかりに、おれを置き去りにして、船木とばかり仲良くするようになった。船木という男は、自分の都合の良い時は機嫌が良く、面倒見も良い男でおれの班の中でも兄貴分のような存在だった。しかし、自分の思い通りにいかないと、手のひらを返したように機嫌が悪くなり、辛辣な態度に出るような男だった。それに仕事をしていない時は仲間とつるんで遊んでばかりいた。
おれはそんな彼女の姿を見て、こう思った。「小沼さんさえ良ければ、それでも仕方がない。彼女を船木に譲ろう」と、彼女との関係を諦めかけた。ただ、船木と付き合っても、彼女にとってあまり良いことは無いような気持ちもどこかにあった。
季節はおれが集配課で配達の仕事を始めてから、2回目の冬を迎えようとしていた。




