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 月日は流れて、ちょうど初夏が過ぎ、梅雨も明けていよいよ夏本番という季節に入ろうとしていた。おれはその頃、たまたま本屋で見つけたアメリカの作家である、チャールズ・ブコウスキーに出会った。この作家もまた、35歳から15年間郵便局に勤務した後、50歳で職業作家となった。おれはこの作家に興味を持ち始めて、まずは短編集から読んでみることにした。

 このブコウスキーという作家は、ちょうどおれがここの郵便局に勤める前に、勤務していたデパートを辞めるか、辞めないか、という時期に一躍ブームになり、翻訳本が次々と出版されていた。本屋の軒先にはその本が何冊も平積みされていたこともあった。おれが気にとめた頃にはそのブームも一段落していた時だった。

 おれはその著書を読み進めていくうちに、その簡潔な文章と、一度読んだら忘れられない魅力溢れる内容が共感を呼んだ。また、おれがその当時から書き溜めていた詩にも通じるような、歯に衣をことを着せない文体がおれの心に突き刺さった。おれはそれまで詩しか書いたことがなかったが、こんな文章を書いてみたいと、一発でその気にさせられた。


 おれは郵便配達の途中でバイクを停めて、見晴らしが良い高台から、住宅街が広がる街を眺めながらこう誓った。

 「おれは日本のブコウスキーと呼ばれるような作家になってやる。まずは正職員になるように、頑張らないとな」

 もともとおれは、学生時代からロック・ミュージシャンになりたいと、夢見ていた。それこそ寝食忘れてギターも弾いたし、歌も歌った。その夢も結果的に叶わなかった今は、今度は作家として成功したい、と夢見るようになった。

 考えてみれば、ステージの上でスポットライトを浴びながら、大観衆の前でギター片手に飛び跳ねたり、ポーズをキメるよりも、机の上の原稿用紙向かってコツコツとペンを走らせた方が、自分には向いていて、合っている気がした。

 よし、やってみるぞ。おれは決意した。

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